【第1話】

真理


真理に会えるかもしれない。ぼくは旅行の準備をしながら真理と再び会えることに心が踊った。

 ぼくの永遠の人・・・・は大げさだが真理はぼくが大学に入って一目惚れした女性だった。押して押して押しまくって必死のアプローチとアタックでなんとか1年半前、真理の叔父さんが運営するペンション「シュプール」でぼくと真理はかなり親密な状態まで行った。あと・・・・あと少しで恋人になれる・・・・はずだった。

 しかし突如真理のお父さんが北海道に転勤になり、お母さんが急病で倒れたため、真理は大学をやめて北海道に引っ越してしまった。ぼくは真理と手紙、電話のやりとりを細々としたが真理のおかれている状態もわかり、会うことはなかった。

 今思えば真理と離れ離れになってからぼくの不幸は始まった。

 真理が北海道に行くのを見送るため空港に行った帰りに財布を落とし、翌日急性盲腸炎にかかり入院し、大学でのテストを受講できず留年し、退院後病院の前で車にはねられ再入院し、生かきを食べて食あたりをおこし、虫歯で歯を3本抜かれ、ゲームソフト弟切草が壊れた。我ながら不幸だ。トホホ・・・・・。真理はぼくの幸運の女神だったに違いない。

 そんなとき、ある人物から1通の招待状が届いた。「我孫子武丸」という人物から手紙が届いたのだ。前述でも挙げたゲームソフト「弟切草」の作者でもある我孫子氏は、1年半前ペンション「シュプール」で起きた出来事をサウンドノベルゲーム「かまいたちの夜」という名前でゲーム化し成功を収めた人物だった。

 かまいたちの夜はさまざまなシナリオが分岐していく小説形式のゲームで、熱狂的なファンがいることで有名だ。その安孫子氏からゲームのお礼として、ペンションシュプール出演者は一泊二日の旅行に招待されることになった。しかしシュプールに泊まったとき我孫子という宿泊客はいなかった。

 宿泊した客の名前はシュプールの名簿からわかるとしても、ぼくや真理など宿泊客の詳細までゲームに描かれていたのはびっくりした。まるで自分の私生活を他人に覗かれる気分だった。

 そのような人物からの謎の招待状、不気味でもあったが真理にもきっとこの知らせが届いているはずだし彼女に会える口実に使えるかもしれない。真理は行くだろうか?ぼくは北海道にいる真理にさっそく電話した。三ヶ月ぶりの電話だ。ドキドキする。


 プルルル・・・・


「もしもし」

「もしもし・・・・・・透?」

「あぁ・・・・久しぶりだね」

 真理は声だけですぐにぼくだとわかってくれて些細なことだけれどうれしかった。

「元気だった?」

「うん、こっちは元気よ。お母さんの様態もよくなってきて、近々退院できそうなの」

「それはよかった!」

 真理のお母さんがよくなったこともうれしかったが以前電話をしたよりも真理の声が元気になっていたこともうれしかった。ぼくはさっそく用件を言うことにした。

「真理にちょっと話しがあってさ。真理の方にも手紙が届いている?」

「手紙?あぁ、我孫子さんという人からの手紙でしょ?読んだわ」

「うん・・・・それでさ・・・」

「真理も・・・・・いくか?って聞きたいんでしょ?」

 図星だった。真理はぼくが彼女にぞっこんなのを知っている。そのうえの言葉だった。ぼくは顔が赤くなった。

 ぼくが電話をしたのは、久々に真理に会いたいという気持ちもあったし、母親の状態もあったので、真理が行けるかどうか心配だったのだ。

「もちろん、行くわよ。透に久々に会えるんだもの」

 ヤッホォ!!!!

 あぁ・・・・・・神様・・・・・・・・ぼくは・・・・・ぼくは・・・・・なんと幸せものなのでしょう。この言葉を聞けただけで幸せです。感激です。幸福者です。これからはぼくのことを犬と呼んでください。

 ぼくは神に感謝し電話の前で手を組んで遠く空を見つめた。しかしそこには薄汚れた天井しか見えなかった。


第2話 一年半ぶりの再会

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