【第2話】

一年半ぶりの再会


 いい・・・・絶対いいっ!

 今、ぼくの隣には船べりにもたれかけ髪をかきあげる真理がいる。ぼく達は我孫子氏が招待した「三日月島」に渡るため船に乗った。一時的に漁船を借り、三日月島へ船を出しているようだった。

 久々会う真理はさらに美しさに磨きがかかっていた。雪のように白い肌、モデル顔負けの容姿、しかも性格も素敵で思いやりがある。もし真理がぼくの彼女だったら。ムフ、ムフフ・・・・そう思うと自然と顔がにやけた。

「・・・・・透?」

 あぁ・・・神様。こんな機会を与えてくださってありがとうございます。今宵、透はアタックします。どうかうまくいきますように空から見守っていてください。船の上でぼくは神に祈りをささげ手を組んで遠く空を見上げた。ふと気が付くと真理が不思議そうにぼくを見ている。

「どうしたの、透?」

「な、なんでもないよ・・・・真理」

 真理は少しぼくを見つめていたが、また遠くをみつめ風にあたり海の香りを楽しんでいた。

「相変わらずだな、透君」

 突然、後ろから男性の声がした。真理の叔父である小林さんだ。相変わらずとは、真理との仲の進展がないことを言ったのか、ぼくの妄想癖のことを言ったのかわからなかったが小林さんはペンション「シュプール」のオーナーでもあり前回の旅行でも大変お世話になった。ペンションを運営しているだけあって料理の腕はピカ一である。

「しかし、何で我孫子氏は小林さんは招待しなかったんでしょうね?」

「まったくだ」

 小林さんはそのことを言うと憮然とした表情をした。ペンションシュプールに宿泊したぼくと真理のところに安孫子氏から招待状が届いたのだがオーナーである小林さん、それと奥さんの今日子さんには招待状が届いていなかった。

 しかし小林さんは、真理からシュプール宿泊客に感謝の宿泊旅行の手紙が来ていることを聞くとぼく達に強引に着いてきたのだ。奥さんの今日子さんはシュプールでお留守番である。

「宿泊客だけに招待したのかしら?」

 真理も疑問を口にする。

「予算がなかったとか?」

「まっさか!? 人一人増やしたくらいでたいして変わらないわよ。普段ペンション運営して忙しいと思って、遠慮したのかしら」

「そうだなぁ・・・・」

 ぼくと真理が見合わせてた。

「とにかく、一度安孫子氏という人に会ってみたいものだな」

 と小林さんが難しそうな顔で言った。

「そうですね、だって小林さんに無断でゲーム化したんですよね?」

「まぁ、そのことは別にいいんだが。 ペンションの宣伝にもなったくらいだからな。ただ宿に泊まった宿泊客の実名入りでゲーム化されていたんだろう?ペンションに泊まっている宿泊客のプライバシーというものがあるしな」

「えぇ、そのお詫びのための今回の招待かもしれないですけれど。ぼくもかまいたちの夜というゲームをやってみました。キャラクターは多少デフォルメされていましたが しかしよくここまで詳しくゲーム化したんだなって驚きました。ぼくはあの時にいた人の誰かがゲームを作ったのかと思ったのですが小林さんは我孫子氏にここの辺りないんですよね?」

「あぁ、たぶん以前の宿泊客の一人だとは思うのだが・・・・ 宿帳にそういう名前の人はいなかったな。我孫子という名前が偽名なのか、宿泊名簿の宿帳に記載されているのか偽名なのか」

 ぼく達がそんなことを話していると後ろのほうからドドド・・・と別の船の音が聞こえてきた。船の後ろの方を見てみると後ろに小型のクルーザーが見えた。

「あれは・・・・・」

 真理が遠目で見ていると、すごい速度でぐんぐんとクルーザーが近づいてきた。お、おい、このままだとぶつかるぞ!

 そのときクルーザーから特徴のあるのんびとした声が聞こえた。

「おぉ~い」

 その操縦している人影を見ると・・・・・・

「か、香山さん!?」

 船には小太りのオヤジ、香山さんがいた。香山さんもペンションシュプールの宿泊客である。いきなりの香山さんの出現で驚いたが、このままでは二つの船がぶつかってしまう!

「香山さん!!船がぶつかる!!!」

 ぼくは香山さんに声がつぶれるくらい叫んだ。すると、香山さんは何かぷちっとボタンを押すとぶつかる直前で船が減速しこちらの船と同じ速度で走りだした。

「大丈夫や、最新のクルーザーやからボタン一つで自在に運転できるんや」

 いったいどんな船や。思わず関西弁がうつってしまったがとりあえず助かった。ぼく達は安堵の為ため息をついた。香山さんの最新の船は自動操縦機能もついているらしく香山さんが舵をとらなくても自然についてきた。すごい船だ。クルーザーからは何故か演歌がBGMで流れていた。

「お久しぶりです、香山さん」

 あらためてぼくは香山さんに挨拶する。香山さんは、以前ペンションシュプールのオーナー小林さんが大阪で働いていたときの上司でいろいろお世話になっていたことがあるらしい。今は大阪のある会社の社長でもあり、今乗っているクルーザーを買うのもたいしたことではないのだろう。香山さんはとても元気そうで顔もつやつやしていた。だが以前よりさらにお腹がでているのが気になった。

「元気そうで何よりや。真理ちゃんとはうまくいってるのかいな」

 隣の真理を見ながら笑顔で尋ねる。

「えぇ・・・・まぁ・・・・」

 うまくいっていると言えば語弊があるのでボクがしどろもどろに答えると

「こんにちは、香山さん」

 と真理がとびきりの笑顔で答えた。

「真理ちゃん、相変わらずべっぴんさんやな」

「ありがとうございます」

 真理も自分の容姿をほめられてまんざらでもない様子。

「透とは一年半ぶりなんです。私のほうが家の事情で大学をやめて北海道にいたものですから」

 真理が代弁してくれた。

「そうか、それは大変だったやろうなぁ」

 香山さんは同情したようにうなずいた。

「そういえば、今日は春子さんは一緒じゃないんですか?」

 真理が辺りをきょろきょろ香山さんの船を見て尋ねる。

 香山さんにはいつも付き添っていた奥さんの春子さんがいた。シュプールにいたときいつも香山さんの隣でつつましげの振舞っていた美人の女性だ。

 真理もすごく素敵だが、春子さんには真理にはない独特の大人の魅力があった。豊かな胸、引き締まったウエスト、スレンダーな足。ムフ、ムフフ・・・・・

「なに、透、鼻の下を伸ばしているの?」

 そんなぼくの顔を真理が怪訝そうに見た。

「い、いや、何でもないよ」

「何でもないっていう顔じゃないけれど?春子さん、美人でグラマーだからね~」

 真理はそういうとプイと横をむく。ま、真理ぃ~!

「相変わらず仲がよさそうやな、君達は」

 ガハハと笑った後、香山さんはふと表情を曇りだした。

「春子はなぁ・・・・・実は死なれてしまってな」

「え!?」

 ぼくと真理と小林さんはあまりのことで驚いた。

「殺人事件に巻き込まれたんや・・・・」

 陽気な香山さんの顔がさらに暗くなる。

「きっと、わいの会社の運営を邪魔しようとした奴の仕業だと思うんやが

 犯人は今だ捕まってないんや。首を切られた残虐な殺され方やった・・・・」

「そうですか・・・・・」

 ぼく達は香山さんになんと言っていいかわからなかった。下をうつむいてしまった。

「すまんなぁ、こんな話してもうて。しかしな、春子には申し訳ないが今は別の嫁がいてな」

 多少先ほどより明るい声の香山さんの声だった。

「もう、この年じゃ結婚できんと思っとっが、運がよかったで。今はおらんが、後で三日月島にくるといっておったから紹介したるわ」

 香山さんはニッと笑った。


第3話 二人きり

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