【第3話】
二人きり
三日月島についたぼく達は、船頭さんにお礼を言って途中で合流した香山さんと一緒に三日月館を探すことにした。香山さんが自分の船を流されないよう固定している間小林さんはその手伝いをしていたので、ぼく達は海岸線を二人で歩いていた。「本当に海がきれいね」 髪を海風でなびかせながら微笑む真理は白いTシャツに水色のショートパンツとかなりラフな格好だったが、バックのきれいな海と見事にマッチしていてまるで人魚が微笑んでいるようだ。「あとで時間があったら、ここで泳いじゃおっか?」 いたずらっぽそうな瞳がぼくをのぞく。「もち、ハイレグ?」「バカ」 真理は笑いながら、ぼくの前をひらひらと天女のように舞う。 いいっ!絶対いいっ!やっぱり、来てよかった! 真理は本当にかわいらしい。さらにあとで真理の水着姿を見られるなんて。む、ムフフ・・・・・ あぁ、神様。このような至福の時を与えてくださり感謝します。ぼくは手を組んで神に祈りをささげ遠く海の地平線を見つめた。するとカモメが目の前に糞をした。「うわぁ!」「何やってるの・・・フフ・・・・・」 真理はぼくの様子を見て微笑んでいた。「そろそろもどろうか? 叔父さんたちも船から降りる準備できていると思うし」「そうだね・・・・・・・ん?」「どうしたの、透?」「・・・・・・・・・」 今その岩影に人がいたような気が。「どうしたの?」 真理がもう一回尋ねる。「・・・・・・気のせいかな。今そこの岩影に誰かいたような気がしたからさ」「ほんと?」「うん、気のせいかもしれないけれど」「ちょっと気味悪いわね・・・」「見てこようか?」「一緒に行こ?」 すると真理がぼくの腕にしがみつくようにくっついてきた。 はぅっ!こ、これはっっっ!腕に、や、やわらかいのがあた、あた、あたっているんですけれど・・・・もしかしなくてもこれはアレなわけでぼくの心臓は400m走を全力疾走したときのようにバクバクと鼓動した。「誰か・・・・いるんですか?」 岩影に誰がいようがいまいがもういいっ!ぼくは真理のふくらみで天国気分だった。そんなぼくの天国気分とは裏腹に真理は岩影におそるおそる声をかけた。「誰もいないんですか?」 少し強い口調で真理は再度尋ねた。しかし岩影からは何も聞こえない。 真理は不安そうにぼくを見つめた。ぼくは柔らかい感触でデレっとしていた顔を一瞬でひきしめた。「よし、ぼくが・・・見てくる」 真理の前でいい格好をしたいというのもあったがここで真理におびえた姿を見せたら男がすたる。もうすこし極楽気分を味わっていたが真理の腕をほどき堂々と大股で近づいた。出てくるなら出て来い! すると物影から何かがぼくに襲ってきた。うぎゃぁ、ほんとに出てくるな!「うわぁ!!!!」 ぼくは突然のことで転び叫び声をあげ、めちゃめちゃに手をふりかざした。「く、くるな!!!!」 はたから見ると、子供がダダをこねて手をぐるぐる回しているように滑稽に見えたかもしれない。でもぼくは必死だった。 しかしぼくがこれだけピンチになっているのに後ろの真理は何も声をあげない。悲鳴をあげながら振りかえると真理は腹をかかえて笑っていた。 我にかえって襲ってきたものを見ると一匹の猫がにゃぁにゃぁ鳴きながらぼくの足にまとわりついていた。「透って、臆病ねぇ」 真理は猫の首をなでながらまだ笑っていた。ぼくは猫一匹に絶叫して腕をふりまわした自分の姿を想像して顔を赤くした。気まずく何も言えない。「この子シュプールにいたジェニーに似てるわ」ジェニーもどきは人なつっこいようで今度は真理の方にじゃれていた。「この子も三日月館につれていっちゃおうか?」「うん・・・・でもさ、この猫首輪をしてないから、飼い猫ではないみたいだし、安孫子氏が猫嫌いだったらって可能性もあるんじゃないかな」 ぼくも猫は好きだったが、もしこの猫を館に連れていったら今の話を真理が他の人にされることを考えたら恥ずかしかったので必死にいいわけを考えた。「う~ん・・・・・そうね、ここは猫ちゃんの住まいだから連れていって、ここに戻れなかったらかわいそうね。もっと遊んであげたいんだけれど、猫ちゃん、ばいばい」 真理はだっこしていた人なつっこいジェニーもどきを地面に下ろして立ち上がり小林さんの方に戻りだした。ぼくも真理の後を追って戻ろうと思ったのだが、ふと気になったことがあった。「ん?」「どうしたの?」 真理が振りかえった。「いや・・・・なんでもない」 近くに一本のマニキュアが落ちていた。もしかしたらジェニーもどきが、これとじゃれていたのかもしれない。しかし誰かがここに落としただけだと思い、たいしたことでもないしさっきも些細なことで大騒ぎして恥をかいてしまったので真理には言わなかった。
第4話 三日月館
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