【第11話】
ドアのきしむ音
ぼくは部屋の隅に荷物を置くとベットに座った。しかしあれだけの惨殺死体を見た後さすがに寝ようという気にならなかった。体に血の臭いがしみついているような気がしてシャワーを浴びたかったが、もともと何十年も前からある館のため、シャワーはおろか、お風呂も個人風呂が一個あるだけだった。今思うとひどいところだ。 血だらけの首なし死体。両手には杭がうちこまれて壁に張りつけにされていた正岡さん。いったい、誰がそんなことをしたのだろう。やはりこの館に招待した我孫子氏なのだろうか。なぜ?そんなことを? いや、これはぼくが考える問題ではない。警察に任せればいい。明日の夕方までの辛抱だ。この館を出てあとは警察に報告すればいいのだ。それだ・・・それでいいのだ。 眠ろうかとも考えたが、とてもそんな気分でなかった。 そういえば真理は一人で怖がってないだろうか。せっかく1年半ぶりに会えたのに真理には悪いことをした。一瞬真理の部屋に行こうとも思ったが真理も今日のことで相当疲れているだろうと思って遠慮した。いろいろな考え事をして気がついて腕時計を見たら夜の0時をまわっていた。 部屋はすごく静かだ。元々牢獄だったため不気味だが、壁が相当厚い作りをしているらしくちょっとした音では隣の部屋の音はまったく聞こえないため、よけいに静かに感じた。外の雨の音も豪雨だと言うのに窓もないのでまったく聞こえず、無音とはこういうことのことを言うのではないだろうか。そんなことを考えていたら3時間くらい考えていた。 そういえば喉が乾いた。キヨさんから厨房のものは自由に使ってもかまわないと言われているのでぼくは一階の厨房にいって喉を潤そうと思った。 部屋の外に出ると、さっきと同様かすかな明かりは付いているものの辺りは静かだ。別の部屋にはさっきの首無し死体が放置のままでその辺に首が落ちてそうですごく怖い。館内は安全だと思っても、暗闇から何か襲ってきそうな感じがして、ぼくは恐る恐る一階の階段のところまでいき降りていった。階段が一段降りるたびにきしむ音がする。一階の廊下は二階よりは若干明るかったがそれでも不気味さは一向に変わらなかった。部屋を出たことを今頃後悔したが、本当に喉が乾いていたので、厨房を探した。厨房にいくと水道があるのでそこで水を飲んだ。自然の水を使っているらしく水はおいしかった。 二階に帰ろうと厨房を出ると廊下の向こうに・・・何か人影が見えた。いったいこんな時間に誰が・・・・・ぼくの心臓はドキドキした。まさか・・・・・殺人犯がこの館に入りこんだのか?ぼくは息を殺し、相手の出方を探った。「・・・・・・・・・・」 相手も立ち止まった。ぼくの心臓はさらにドキドキした。気づかれたのだろうか。「・・・・・透君か?」 暗闇の人物から恐れるように声がかけられた。「・・・・俊夫さん?」 アニキだ。ぼくは俊夫さんの声を聞いて安堵した。「どうしたんです、俊夫さん?こんな時間に」「トイレだよ。そうしたらこっちの方から音がしたから見にいったんだ」「そうだったんですか。喉が乾いたので厨房で水を飲んでいたんです。お騒がせしました」「・・・・そうか・・・・ まぁ、とにかく物騒だからあまり出歩かないほうがいいだろう。しかし・・・・・」「しかし、どうしました?」「正岡さんはなんで殺されたんだろうな」 俊夫さんは、疲れた顔で言った。「ぼくも気になって眠れませんでした。誰だってあんな惨い死体を見たらそうだと思います・・・・なんで・・・なんで・・・あんなに残酷な殺され方をしたのか・・・・それと我孫子氏がここに来ていないのか・・・」「あぁ・・・」 俊夫さんも第三者がこの殺人をおこし、この館のメンバーに我孫子氏がいるとは考えたくなかったようだ。ぼく達は小声で話しながら二階にあがっていった。
”キィィィィィ”
「今、何か物音しませんでした?」 なにか小さなきしむような音が聞こえぼくは俊夫さんに聞いてみた。「いや・・・聞こえなかったが・・・・」
”キィィィィィ”
「ほら・・・・・」「あぁ、今のは僕にも聞こえた」 俊夫さんにも聞こえたのだから、幻聴ではないようだ。階段を中央に、ぼくや俊夫さんの部屋は右側に配置されていたのだが階段の左側のほうから、音が聞こえるようだ。「もしや・・・・殺人犯が・・・・」 ぼくはできるだけ怯えた顔を隠し俊夫さんの顔を見た。「わからない・・・・だが、ほっておくわけにもいかないだろ・・・・」「わ、わかりました・・・・二人でいきましょう」 ぼく達は階段から左側に配置されている廊下を歩いた。確かこっち側の部屋に割り当てられていた人は、小林さん、啓子ちゃん、香山夫妻、美樹本さんだったような気がする。
”キィィィィィ”
不気味な音はまだ聞こえてくる。かすかな明かりを元にぼくと俊夫さんは暗闇の廊下を歩いていった。しばらく歩くと・・・・ドアが半開きになっている部屋があった。
”キィィィィィ”
ドアが揺れた。そうか・・・・ドアがきしむ音だったのか。しかし何故ドアが開いている?ここは・・・・美樹本さんの部屋だ。もしや・・・・美樹本さんの身に何か・・・「俊夫さん・・・・」 ぼくは俊夫さんの顔を見た。「見るしかないようだな・・・・」 俊夫さんも緊張した顔でドアに手をかけた。「美樹本さん?」 ぼくも恐る恐るドアに手をかけ部屋を覗きこんだ。すると、さっき感じた血の臭いがたちこめていた。うぅ・・・むせる臭いだ・・・・・・・・「美樹本さん!!」 ぼくと俊夫さんはドアをおもいっきりあけた。美樹本さんの部屋を見るとベットにバラバラになった死体がぶちまけられていた。胴部、腹部も切断され、手のひらに杭をうめこまれ、ベットにはりつけにされていた。「ウワァァァァァァ!!!!!」 ぼくは絶叫し、その部屋から逃げ出した。俊夫さんは部屋の入り口で呆然と立ち尽くしている。 絶叫を聞いて、逆側の通路から小林さんと村上さんがかけつけてきた。また、隣の部屋の香山さんも出てきた。「どうしたんだ、透君!!!」 小林さんはぼくの肩を揺すった。ぼくは恐怖と驚きのため、わめくことしかできなかった。ただ美樹本さんの部屋を指差した。 小林さんと香山さんが美樹本さんの部屋の前にいくと「ウワァァァァァ!!!!!!」 二人とも絶叫をした後腰をぬかしていた。美樹本さんが・・・・・・殺されていた。
第12話 神の裁き
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