【第17話】
俊夫と可菜子
みどりはどこにいったんだ・・・・ みどりは荷物をもってくるといってそれっきりだった。今は啓子ちゃんと二人きりである。 オーナーや真理ちゃん、透君、香山さんなどみんな信用したい人ばかりだ。密室で可菜子ちゃんや夏美さんが殺された。信じがたいことだった。やはり神の裁きなのだろうか。 啓子ちゃんを見ると手を組んで何かブツブツつぶやいている。親友の可菜子ちゃんを目の前で惨殺されたら誰だって正気ではいられない。ぼくだって、もしみどりがあんな目にあっていたらと考えたら・・・・ぼくはイヤな考えを振り払った。みどりはきっと生きている。みどりに限ってそんなことはない。都合のいい考えだとはわかっているが、みどりが生きているとぼくは思うようにした。 そのとき、急に応接間の電気が消えた。「キャァ!!!!」 啓子ちゃんの叫び声が聞こえる。「お、落ち着くんだ!」 言いようのない恐怖が走る。しかしこういうときこそ冷静にならなければいけない。ぼくは電気があるところに手さぐりで近づいて電気をつけようとした。よろよろと歩きながら、どうにか電気のスイッチを探し当てた。しかし電気のスイッチはカチカチと言うばかりで電気はつかない。いったい、どうしたんだ・・・・ そのとき、ドアの鍵がカチャリと開く音がした。そしてドアのきしむ音が聞こえる。ぼくの心臓はドキドキした。誰かがこの部屋に入りこんだのだ。そう思った瞬間、ぼくの首に鈍い痛みが走った。針で刺されたような痛みだ。「み、みどり・・・・・・」 ぼくの意識はだんだん薄れていき、意識を失った。
書庫から戻ってきたぼく達は応接間に戻ってきた。しかし応接間の鍵をあけようとすると、開ける前に扉がひらいた。そして中からまた血の臭いがした。部屋の中は真っ暗だった。「俊夫さん!啓子ちゃん!どうしました!?」 ぼくは暗闇に向かって叫んだ。そのとき、突然応接間の電気がついた。「キャァ!!!」 真理の悲鳴がこだました。応接間の中心に俊夫さんがつるされていた。そして、俊夫さんの手には杭が打ちこまれていた。そう、体は切られ、俊夫さんは生死は明らかだった。「俊夫さん!」俊夫さんまで・・・・・いざとなるときに一番著理になる俊夫さんまで殺された・・・・・誰だ。誰がこんなことをした! もう・・・・もうたくさんだ・・・・ しかし部屋の隅をみると、啓子ちゃんがいてブツブツつぶやいていた。啓子ちゃんは無事だった。「啓子ちゃん、どうしたんだ!」 啓子ちゃんからはなんの反応もない。ぼく達の姿が見えないのか、ただひたすら手をくみブツブツつぶやいている。「精神をやられたな・・・・・」 そう言ったのは小林さんだった。きっと、目の前で俊夫さんが殺されるところを見て気が狂ってしまい自己崩壊したのだろう。しかし、目の前で死を目前にしたのなら、誰かが殺したかはわかるかもしれない。「啓子ちゃん、啓子ちゃん、しっかりして!」 真理が必死に啓子ちゃんの肩をゆする。しかし啓子ちゃんの目には誰も映らないようだ。「ダメだわ・・・・・」 真理が悲しそうに啓子ちゃんを見る。しかし・・・・・これで犯人がほぼ特定できた。少なくとも、ぼくと真理、小林さん、キヨさんは一緒にいた。キーを持っているキヨさんは唯一館の部屋を行き来できるが、ぼく達と一緒にいたのだ。つまり、キヨさんは犯人をはずれる。 夏美さんの部屋にいる香山さんが犯人であることも考えられない。香山さんは村上さんが殺されたとき、小林さんと一緒の部屋にいたので村上さんを殺害が不可能なのだ。 つまり、ここにいる啓子ちゃんか、もしくはみどりさんになる。二人のうちどっちかが我孫子氏でマスターキーを持っていれば・・・・密室殺人も行える。しかしこの啓子ちゃんの様子は自作自演と言えるだろうか。とてもだがそうには思えない。 犯人は・・・・残念ながら、みどりさんになる。他に犯行を行える人物がいないのだ。 しかし何故みどりさんは夫である俊夫さんまで殺したんだ。二人の間に、何か大きなひずみがあったのだろうか。それとも聖痕を持つものはそれほどまでに生かしておける存在ではないのだろうか。ましてみどりさんも聖痕の持ち主だったのだ。そして、無関係である美樹本さんや、夏美さん、村上さんを殺した動機はいったいなんなのだ。「とにかく応接間を出よう」 小林さんが提言する。確かに俊夫さんの惨殺死体があるこの部屋にはとてもいられなかった。「やはり二階の部屋に閉じこもるしかないようだ」 ぼく達はブツブツいっている啓子ちゃんを連れて二階にあがった。そのとき、暗闇から人が歩いてきた。「香山さん!」 香山さんはゆっくりとぼく達の方を見た。香山さんの顔は疲れ果てた顔をしていた。涙も出尽くしたのだろう。まぶたがはれていた。でもよかった、香山さんはまだ無事だった。「香山さん、部屋に閉じこもりましょう。俊夫さんもやられました」「そうかい・・・・」 香山さんは一言そういってぼく達と一緒に部屋に来た。6人一緒の部屋に入るのは到底無理だったので、3人ずつに別れ、ぼくと真理と啓子ちゃんは、ぼくの部屋に、小林さんと香山さん、キヨさんは小林さんの部屋に鍵をかけてたてこもることにした。 啓子ちゃんはぼく達と一緒にいても、ただブツブツ言っているだけだった。その啓子ちゃんの姿を見ているだけで痛々しかった。しかし朝さえくれば・・・・香山さんのクルーザーからこの島から逃げられるのだ。それに、みどりさん一人であれば、みんなで戦えば負けるはずはない。大丈夫だ・・・・大丈夫だ・・・・そう自分に言い聞かせた。
第18話 犯人は・・・・・
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