食堂に戻ったぼく達はしばらく無言だった。キヨさんが作った暖かい料理も、あの惨殺死体を見てはさすがに喉を通らなかった。「いったい、なぜ、あんなことが・・・・」 最初に声を出したのは俊夫さんだった。「いや、それより殺された人はいったい誰なんだ」 俊夫さんの言葉に続いて美樹本さんが言葉を足した。「・・・・・・・・・・」誰もその問に答えるものはいない。ぼくは沈黙が耐えられず村上さんに質問をした。「そういえば村上さん、二階にいって何があったんですか?」 さっきから怯えた様子をしていた村上さんがびっくりしたようにぼくを見てそのあと叫んだ。「わ、わたしはやっておらんぞ!」「それは・・・・・わかっています。あんなに短い時間で首をきって杭をうちこむのは不可能ですから。そうではなく、なぜあの部屋に行ったのですか?二階にいってからの行動をお聞かせいただけないでしょうか」 村上さんを落ち着かせるためぼくはできるだけゆっくりと優しく言った。「あぁ・・・・・そうか。食事のあと・・・・その・・・・ ちょっと気分が優れなかったから部屋で休もうとしたんだ。部屋の割り振りはまだされてなかったからニ階の部屋のドアノブを1つずつまわしていったんだ。しかしどの部屋も鍵がかかってて部屋に入ることはできなかった。だがあの部屋だけは、ドアがひらいたのでドアをあけたら、あの光景がひろがっていたんだ」「そうだったのですか・・・・そういえば、キヨさん」「は、はい・・・・なんでございましょう」 急に名前をよばれたキヨさんはビクっとしたあとぼくの方を見た。「二階の鍵は一部屋だけ空けておいたのですか?」「いいえ・・・・朝、一通り部屋の掃除をしまして、誰も部屋をあけるものはいないと思うのですがすべての部屋の鍵を閉めました。食事が終わりましたあと、みなさんに部屋の鍵をお渡ししようと思っておりましたので・・・・」「ということは、朝の時点ではあの死体はなかったんやな」 香山さんも腕を組みながら、考え込んでいる。「はい・・・・朝の時点ではあのようなものはございませんでした」 キヨさんがそう言うと、また沈黙がこの部屋を支配した。 朝誰もいなかった部屋に、今こうして死体があったということは、殺人がおきたのは今日行われたのだろうか。今日より前に殺害して、あの部屋に死体を置いたという可能性はある。だがあの部屋の壁に死体を張りつけたのは今日としか考えられない。キヨさんが朝部屋の掃除をして鍵をしめたあと、夕食で村上さんが死体を発見するまでの時間に何者かが鍵をあけ、死体を置くか、あの場で殺人を犯したのだ。「もしかして・・・あれが我孫子氏なのではないでしょうか?」 我孫子氏であれば、マスターキーを持っていたとしてもおかしくはない。ぼくは誰に言うでもなく全員に言ってみた。「その可能性はありえるな。キヨさんしか鍵は持ってないはずなのに鍵が開いてその部屋に死体があった。ということはキヨさんがいない間にキーを持ち出し一瞬使ったのか、それとも別のマスターキーを持っていたのか。どっちにしろ安孫子氏のしわざに違いない」 俊夫さんはうなずく。「あれが誰だっていい!こんなところにいられないわ!わたし、帰る!」 いきなりみどりさんが叫んで席をたった。「みどり・・・・・」 俊夫さんがいつも温和なみどりさんの変わりようを見て戸惑う。「それは、できないぞ。あなただって容疑者の一員なんだ」 美樹本さんはいきなり、みどりさんにそんなことを言った。みんなが驚いたように美樹本さんを見る。美樹本さんは厳しい顔をしていた。「わたしがあんなことをしたっていうの!」 みどりさんが怒った。「そうとは言ってない。だが、この中の誰かが殺したっていう可能性だってあるんだ」 美樹本さんの言葉に全員がはっとした。今までこの部屋にいる以外の第三者がやったこと、つまり我孫子氏だと思っていた。だが我孫子氏が”この中にいる”と考えたら・・・・ 気まずい沈黙が辺りを支配した。かすかだが、館の外から風の音が聞こえる。窓がない部屋で風の音が聞こえるということは相当外の風が強くなっているのだろう。「それに、この強風だ。とてもだがこの島からは今出られない。明日風がおさまって夕方まで迎えの船も来ないのだから」 そう美樹本さんが言うとみどりさんはムスっとしたが正論なだけに何も言わずにみどりさんは再度席に座った。「とにかくこの館内を調べる必要がありそうですね。ぼくは館内を回ってみようと思います。誰か一緒に来てくれる方はいませんか?」 人殺しがいる館にただじっとしているのが耐えられなかったぼくは館内の捜索を提案した。さすがに怖くて一人でこの館を見ることはできなかった。第三者に我孫子氏が存在したとして、襲われても勝てる気がしない。「そうやな、人殺しがいるかもしれん館でおちおち寝てもおられへんわ。わいも行くで」意外にも香山さんが同行を申し出てくれた。「じゃぁ、ぼくも行こう。男手は多いほうがいいだろう」 香山さんと俊夫さんが席を立ちあがって一緒に来てくれることになった。「では・・・・わたくしもご一緒しましょう・・・・館内の鍵は私が持っておりますので、お役にたてればと思います」 キヨさんも腰をあげてくれた。「キヨさん、よろしくお願いいたします。まずはどこから回りますか?」 ぼくは香山さんと俊夫さんに聞いた。「やはり二階からやろ」「そうだな・・・・あの死体はまた見たくないが身元が判明するかもしれない。だが武器も欲しい。何か棒みたいのがあればいいのだが・・・・」「キヨはん、なんかそういうもんあるかいな?できれば竹刀なんかあるとうれしいんやが」「あ・・・・はい・・・竹刀はございませんが・・・掃除するときに使うモップなどございますが・・」「まぁ、ないよりはましやろ」「では、各々武器をもったあとニ階にあがりましょう」 そういってぼくは話しを締めくくった。「透・・・・気をつけてね・・・・・」「俊夫・・・・無理しないで・・・」「あんた、もし危なかったらすぐ逃げるんよ・・・」 真理とみどりさんと夏美さんはぼくと俊夫さんと香山さんの身をそれぞれ案じてくれた。
|