【第10話】
破格の仕事
俺達はノアニールの街でしばらく過ごすことにした。
ここは居心地が良かった。
孤児院での生活がひどすぎたと言えばそれまでだが、ここの生活は自由だった。
家もない俺達はしばらく橋の下で雨風をしのぎ、川で魚をとったり、森でキノコをとってその日暮らしの生計を立てていた。
リュックが様々な本を読んでいたおかげで、薬草やキノコに詳しく、どれが食べ物になりどれが薬になるかというのを見分けることができた。
ノアニールは食料も豊富で魚も薬草も多くとれれば、街で売れたしその金で他に物を買うこともできた。
ここは本当に居心地が良かった。
俺達が孤児院を出て9年の月日が過ぎた。俺もリュックも、15歳になり、頼りなかったリュックも今ではそこそこがっちりした体になっていた。それ以上に俺の体は大きくなっていたが。
また、15にもなれば村のみんなも仕事を任せてくれた。主に力仕事が多かったが、街の工事や、時にはモンスターが襲ってくることもあったのでそのときは戦ったりもした。
リュックは相変わらず剣を握るのが好きではなかったが、その分、暇さえあれば本を読んでいた。そして独学でいつのまにか初歩の魔法を使えるようにまでなっていた。
子供の頃に孤児院での生活は決して楽ではなかったがあの厳しい生活を生き続けた俺達は基礎体力と根性がしっかりと子供の頃についていたのかもしれない。
俺達は街人から仕事の依頼を受けてそれを生活費にしていた。殺し以外の仕事はたいてい引き受けた。いや、引き受けたのは俺で、リュックはそれにつきあわされたという方が正しいか。
しかし、仕事を遂行する正確さは確かであり、どんな仕事をもこなし、それが噂となり他の街からも依頼が来るようになってきた。
リュックは危険なところはイヤがってはいたが、俺が行くところにはいつもついてきた。腕っ節が強い俺と、魔法が使えるリュックの組み合わせは最強だった。
そんなときに破格の仕事の依頼が来た。80000Gという大金の仕事だ。その代わり仕事の内容もかなり難しいものだった。
ロマリア王の金の冠を盗んで欲しいというものだった。ロマリアの国宝である金の冠は名のとおり純金でできていて大変な価値があり他の街からの依頼で、身なりのいい商人でどうしても欲しいということで依頼がきた。
正直迷った。城ということは、そう簡単に盗めるわけにはいかないだろう。また警備もきっと厳しい。
しかしどんな仕事でも殺し以外は受けてきた仕事の正確さの信用を落としたくなかったのと大金に目がくらんだのだ。
俺はその仕事を了承した。
しかしリュックは当然ながら賛同しなかった。
「ルーニ・・・・・今回の依頼は断ろうよ」
リュックが困惑した表情で言ってきた。俺は今回持って行く自分の装備を確認していた。茨の鞭に軽量ながら威力のある毒牙のナイフ、それとうろこの盾、鎖かたびら、俺が愛用している装備だ。
一方、リュックは魔導師の杖とみかわしの服、両方ともノアニール産だ。杖がなくてもリュックは魔法を使うことができるが、魔法は無限に使えるものではないし、魔法を封じ込められたときの護身用として魔導師の杖を持っていた。
両方ともかなり高価なものだったが前の仕事の依頼の報酬で購入したものだった。
「なんでぇ?」
「やっぱり、盗むことはよくないよ・・・・」
一般論を言う。
確かに以前の俺たちは、食べるために、生活するために、どんな仕事でもこなした。
しかしある程度ゆとりができた今、自分の家を持たないまでも貸家を使い毎日それほど不便しない生活、リュックは仕事は選ぶべきだと主張した。
しかし、俺は依頼された仕事はどんなことでもするべきだと思った。
「じゃぁ、いいよ。
俺一人でやるから」
俺は少しふてくされながらも、旅の準備を続けた。
「そういうわけにはいかないじゃないか・・・」
リュックが本当に困った顔をして言った。
「ねぇ・・・・ルーニ・・・・」
リュックは懇願するような目で見てきた。
「確かに今回の仕事は危険だよ。
だからお前には無理についてこいとは言わねぇ。
ただ、今回はもう依頼を引き受けたんだ。
前金ももらっちまったんだ。
だから今回だけはやらなきゃなんねぇ」
「・・・・・・・・・・・」
「それに今回まとまった金が入ればしばらくは
金に困らない生活ができるはずだ。
そうしたらその資金で旅に出ようかと思ってる。
もちろん、おまえと一緒にな。
こんな泥棒の仕事をしなくてもいいかもしれない。
宝探しにいろいろ回るのも面白いかもな。
だが今回だけはこの仕事はゆずれねぇ。
だから俺一人でも行く」
そうリュックに言った。
「・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・」
リュックはため息をついたが、意を決意して俺に言った。
「わかったよ・・・・・・本当に
盗みの仕事はこれで最後だよ・・・」
しぶしぶリュックもうなづいた。
第11話 互いの夢
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