【第62話】

勝者と敗者


エルフの青年からエルフのアンが駆け落ちした理由と

夢見るルビーの話を聞く。

夢見るルビーはその魔力によってエルフの里を

人間達に見つからないように霧がかかっていたからだそうだ。




「本当にアンの居場所を知っているのか?」


「あぁ、知ってる」


「いったい、アンはどこに?」


青年は興奮をしているようだ。

俺はゼネテスを見た。ここで正直に言うか迷ったからだ。

ゼネテスは沈黙を守っている。


俺は話を引き延ばすように、話題を変えた。


「あんたは随分その娘を気になっているようだが、それは同じ種族の仲間が心配からか?

 それともその娘が、好きなのか?」


エルフの青年は俺の言葉を聞いて、うっとつまる。

しかし決意したようにしっかりとした口調で話す。


「あぁ、アンのことは好きだ。

 確かに子供っぽいとろこもある。だがそれは言い換えれば純粋さでもある。

 まだ世間知らずなところはあるが、俺は幼い頃からずっとアンと一緒にいた。

 だから、人間の男などに渡したくない」


「アンはあんたの気持ちに気がついているのか?」


「いや…本人にそう言ったことは一度もない」


青年は顔を伏せる。


「だったら、片想いじゃねぇか」


さっきまで黙っていたゼネテスが直球な言葉を投げかける。

青年はゼネテスのことをキッと睨むが、すぐに表情を戻した。


「確かに、あんたの言うとおりだ。

 もしアンに素直に気持ちをうち明けていれば

 こんなことにはならなかったかもしれない…」


「ふん、恋なんてどこも似たようなもんよ。

 言えば、こうなったかもしれない。

 あの時こういう行動したら、叶ったかもしれない。

 そんなことを後で思うことはいくらでもできる。

 感傷に浸ることはいつでもできる。


 でもな、恋も他のことでもな、行動しなきゃ始まらねぇんだよ。

 自分の願いをかなえるには行動するしかねぇ。

 行動しないでただ思っていた者は敗者だ。

 行動して、初めて勝者になる資格を得ることができる。

 行動できない人間は、どうこう言っても、それは負け犬の遠吠えにしか聞こえねぇな」


ゼネテスはそう言ってエルフの青年を上から見下ろした。


「そこがあんたと人間のその男の違いだったんじゃねぇのか?」


エルフの青年は黙って何かに耐えているようだった。


第63話 エルフの同行

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