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 リディアと母と暗黒騎士のお話

第5話 リディアと暗黒騎士


「リディア、僕の後ろに下がって!!」

セシルは敵に向かいながらそう叫んだ。
私は指示に従って、セシルの後ろに回りこむように後ろに下がった。

「く、………暗黒剣!」

勢いよく放たれる暗黒の風は敵の集団を切り裂く。
しかし、同時にセシルの腕は血がにじむ…。
腕の内側からの暗黒剣の反動だという。

「まだ、ダメか……。もう一度…。」

セシルは私を庇いながら戦う。
そして、その強さは無類の物のように見える。
宿屋を襲ったバロンの兵士はセシルに四人がかりで戦ったのに、
結局セシルは返り討ちにしてしまった。

「いくぞっ!………暗黒剣!!」

多分、セシルは一人ならここの魔物なんて一匹づつ倒せるんだと思う。
そうした方が受けるダメージも格段に少ないはずだ。
それほどまでに、暗黒剣の反動はすさまじい。

でもそうしないのは多分、同時に倒さないと時間がかかるから。
そうすると私に攻撃してくる敵が現れるから…。
あの日、私の事を守るって言ってくれたセシルは、
私のために追わなくてもいい傷を負っている。

お母さんはあの日、
暗黒剣は心を悪にする事と引き換えに得た力だと言っていたけれど、
きっとそれは違うんだと思う。

自らが傷つき、自分の心が闇に蝕まれていくのを構わず、
周囲の悪評に耐えて、それでも何かを守るような………。

だって今、セシルが負っている傷は本来私が負うはずだった傷。
私を守るために負っている傷だから。
きっと暗黒騎士は、お母さんが言っていたパラディンのように、
優しくて、誇り高くて……。
そして、誰にも理解されるような事が無い孤独の剣なんだと思う。
だから私は…………。

「ありがとう…」

けれど呟いた感謝の言葉は、あまりに小さい音で
風にまぎれて儚く消えていった。

THE END

後書き
第4話「聖騎士・暗黒騎士編」に戻ります
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