【8、幻獣の王】
セシルたちは、一晩宿屋で世話になっていたが、そこへヤンの妻であるランが、ファブール王からの言葉を伝えにやってきた。少し太めで、肝っ玉母さんという雰囲気の女性である。
「陛下も大変だったろうけど、何とか無事だったよ。まあ陛下は格闘の心得のある人だから大丈夫とは思ったけどね・・。」
ランの知らせに対し、ヤンは安堵の表情を浮かべた。しかし問題はこれからであった。
「ご苦労だったな。しかし私達も今晩はここでゆっくりとしていくが、また明日から行かねばならない所がある。」
気丈なランは、ヤンの話を聞き、しっかりおやりよと、夫の肩を叩いた。けっこう力があるのか、ヤンは顔をしかめた。
「私は今日の戦いで体力を使ったのだぞ!少しはいたわらぬか?」
「何言っているのさ、このくらいで・・!」
ランはそう言って笑い飛ばしていた。ヤンは少し困った顔をして、セシルたちを見たが、セシルたちも穏やかな笑みを浮かべているので、それ以上妻に何も言わず一緒に笑った。
なんだかんだ言っても仲の良い夫婦のようであった。
☆
セシルたちは、ローザを取り戻すためとこれ以上の侵略を止めるために、ファブールから海路でバロンに向かっていた。船員たちは様々な噂をしていた。
リディアは少し気になることを耳にした。
「最近大海原の主が現れて船がよく難破するって話だぜ。もっとも死傷者は1人として出ていないって話だけど・・。」
リディアは亡き母から海王リヴァイアサンについて聞いたことがあった。北の海から現れる大海原の主リヴァイアサン。翼のない巨大な海竜の姿をしているらしいが、実際にその姿を見たものはいないと言われている。
「でも会ってみたいな。強い幻獣が呼び出せたらもっとセシル達の力になってあげられるのに。」
まだリディアはチョコボしか召喚できないが、そのうち他の幻獣も召喚できるようになるだろう。もしかしたらリヴァイアサンにも会えるかもしれない。
☆
リディアがそんなことを何気なく考えていたのだが、ふと彼女は何かが海の底にいることに気づいた。船員達が騒ぎ始めた。
「ま、まさか!」
「ホントにいたのか!」
「大海原の主!」
「あいつが・・・」
「リヴァイアサンだーッ!!」
船体がものすごく大きく揺れ、船に乗っている者は、立っていることすらままならないようだった。
「とても大きな力・・!この感覚は確かに幻獣、まさか!?」
リディアはふるえはじめた。以前彼女は混乱してタイタンを召喚してしまったことがあるが、そのタイタンよりもはるかに大きな力を持つ幻獣が確かにいる。ギルバートはリディアの様子に気づき、声をかけたその時だった。それまで穏やかだった海が急に荒れ狂い、渦を巻いている。激しい揺れに、リディアの小さな身体が海に投げ出されてしまった。
「リディア!?」
ギルバートがリディアを助けようと身を乗り出すと、彼も激しい揺れに身体をとられて船からおちていった。そしてさらに、ギルバートを助けようとしたヤンまでもが海に投げ出されてしまった。
「ギルバート!ヤン!!」
セシルは二人が心配だったが、今は自分の身の心配をするべきだと船にしがみついた。しかし船に乗っているから安全だという保証はない。現に船体は破壊されていく。セシルは舟板にしがみつきながら意識を失っていった。
☆
真っ先に海に投げ出されたリディアは気付いた時、全く見知らぬ世界にやってきた。どこかの洞窟のようである。そしてリディアは巨大な幻獣の背にいることに気が付いた。
「ここは?私をどこへ連れて行くの?」
「ここは人間界と幻界との通路だ。小さな召喚士の子よ。私はそなたを幻界へ連れていく所だ。」
幻獣は見る者に恐怖感を抱かせるような大きな海竜の姿をしていて、その声は威厳に満ちていたが、どことなく優しさを感じさせた。
「あたしはリディア。どうしてあたしを幻界へ?」
「私はリヴァイアサン。この星がそなたたちの力を必要としておる。我々幻獣にもそなたのような強く穢れ無き魂の持ち主が必要なのだ。」
リヴァイアサンはそう言ってリディアを幻獣の町へ連れてきた。そこにはチョコボをはじめとする様々な幻獣がいた。
「すごい!本当に幻獣ばかり!!」
リディアがそう言ってリヴァイアサンを見ると、そこには巨大な海竜の姿はなく、白く長いひげをたくわえた老人がいた。
「あれ?幻獣の王様は!?」
「わしじゃ!わし、いつもはこういう姿をしておるんじゃ!!」
リヴァイアサンの姿を見たことがある者は極めて珍しい。それは人間だけでなく幻獣も同じだった。リヴァイアサンが、真の姿を見せるのは、よほどの信頼を得た場合か、その逆鱗に触れた場合のみである。そしてリディアの場合は、リヴァイアサンのほうから姿を見せたという特別な例であった。
・第9話 「試練の山」に行きます
・第7話 「侵略」に戻ります
・小説目次に戻ります
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