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【15、マッドサイエンティスト】

 セシルたちはドワーフの地下出口を抜けて、バブイルの塔に入っていった。作りが機械仕立てで、ゾットの塔に良く似ているが、もっと入り組んでいて魔物のタイプが火炎系の者が多い。途中で鍵のかかった部屋があったが、5人は構わず上の階へと進んで行った。
「しかしずいぶん高い塔だな。何階まであるのだろう?」
「とにかく行ってみよう。」
 セシルが先頭に立って一番後ろにカインがまわっていた。体力の弱い女性2人は間に挟まれて守られていた。間違ってもこの2人に前を歩かせてはならない。
                    ☆
 8階までやってきた時、白衣を着た小柄な老人がいた。見るからに貧相な老人だが、その目つきは血走っていて尋常な感じではない。どこか狡猾そうな感じもする。
「イヒヒヒヒ!あの砲台で砲撃すればドワーフの城などイチコロじゃ!!この天才ルゲイエ様に不可能はないわい!!」
 ルゲイエはゴルベーザの四天王の1人ルビカンテの腹心の部下である。彼の役割は、新しい武器の開発と、モンスターの改造であった。物理学、化学、生物学、機械工学、数学、医学に長じていて、自他共に認める才能の持ち主であった。しかし彼の愚かしいことは、その天賦の才能を有益なことではなく、破壊的な方向に向けていることである。まさに天才と狂気は紙一重の一例であった。
「こうやって手柄を立てればわしも4天王の一員となれるかも・・。そうすれば究極のモンスターと戦闘ロボットを作り上げて・・ウヒヒヒヒ!!」
 ルゲイエは何やら妄想に浸っている。リディアは思わずつぶやいてしまった。
「変なおじいちゃん・・。」
 リディアはしまったと口を押さえた。リディアの澄んだ声ははっきりとルゲイエの耳に入ってしまった。
「な、何じゃ貴様らは!?ははあ、貴様らゴルベーザ様にたてつくセシル達だな?この天才科学者ルゲイエ様とその息子がお前たちに引導を渡してやろう!!」
 ルゲイエは側にあったロボットに油を差し、スイッチを入れた。
                    ☆
「さあ、行け!わが息子バルナバよ!!こやつらに貴様の力を見せてやるが良い!!」
 バルナバと呼ばれたロボットはものすごい力で暴れだした。身の丈2メートルを超す大柄のつぎはぎだらけのいかにも怪力そうなロボットである。ルゲイエにとってこのバルナバは記念すべき第一作で、決して出来としては良くなかったもののそれなりに思い入れがあって息子と呼んでいた。
「行け、息子よ!こてんぱんにするのだ!!」
「ウガー!!」
力はありそうだが、あまり利口とはいえないようである。こともあろうに、親とも言えるルゲイエのほうに殴りかかった。
「痛て!ワシを殴ってどうするんじゃ!?あっちだ、あっちだ!!」
 ルゲイエがこう命令すると、やっとセシル達のほうに向き直って殴りかかってきた。賢くない上に、ノーコンのようで、セシルに拳は当たらず、地面を思いっきり殴っていた。しかし、その破壊力はさすがで、頑丈そうな床に、大きな穴が開いてしまった。
「すごいバカ力だな!?単純攻撃ではかないっこない。」
「ヤン、できるだけ、気をためて力をアップさせてから攻撃したほうがいい!ローザはプロテスでみんなの防御力を上げてくれ!」
 セシルが指示を出す。時間をかければさほど困難な敵ではない。問題は相手の破壊的パワーをもろに受けないようにすることである。
「わかったわ!」
 ローザはプロテスをまずカインにかけようとした。しかしカインはセシルかヤンにその魔法をかけるように言った。
「俺はジャンプ攻撃でダメージを受けることはない。それよりも直接あのロボットの攻撃を受けるのはセシルかヤンだ。その2人を優先してくれ!!」
 ローザはセシルにプロテスをかけた。カインの読みが当たり、バルナバはセシルを攻撃した。セシルはそれほど強いダメージは受けなかった。そうこうしている間に、バルナバは油が切れかけて動気が鈍くなった。
「おっと、油がきれてはいかんいかん!!」
 ルゲイエは油をさしていた。戦闘でなければ、ユーモラスとも思える行動だったが、あいにくセシル達には、ゆっくりと相手をしている時間などない。
「よーし、次はあたしの番!!」
 リディアは雷の幻獣ラムウを呼び出した。機械系のモンスターは雷に弱い場合が多い。白いひげを生やした老人はルゲイエとバルナバに杖を振りかざした。杖からほとばしるような雷が飛び出して、2人に襲い掛かった。バルナバは動かなくなった。ルゲイエはバルナバに油をさした。しかしその間にカインのジャンプ攻撃とヤンの攻撃をくらい、バルナバは壊れてしまった。
「うぬぬ、よくも・・!!」
 ルゲイエは白衣を脱ぎ捨てた。
                    ☆
 ルゲイエはサイボーグであった。元々は普通の人間だったのだが、究極の兵器を作る幻想に取り憑かれていた。その意欲は老人になって身体が弱っても衰えることはなく、自らをサイボークへと変えてまで生きようとした。
「フフフフ、わしをただのジジイだと思ったら大間違いだ!わしは天才科学者ルゲイエボーグ様だ。わが毒ガス攻撃を受けてみよ!!」
 ルゲイエボーグの毒ガス攻撃を受けたヤンとリディアは座り込んでしまった。かなりやっかいな攻撃ではある。
「ローザ、君は治療に専念してくれ。僕とカインでこいつは倒すよ!!」
「フン、人間ごときにこのわしが倒せるものか!!」
「死に損ないがほざいていろ!セシル、行くぞ!!」
 ボーグ姿になって強敵になったからといってひるむわけにはいかないのだ。カインのジャンプ攻撃とセシルの聖剣攻撃が炸裂する。
「ググググ、そんな馬鹿な!!この天才が敗れるとは・・!」
 ルゲイエボーグは断末魔の声をあげて死んだ。残っていたのは彼の体の一部である機械の手をセシルは拾い上げた。
「暗黒の力に魅せられたばかりにこんなことに。でも僕にはこの老人のことを他人事のように思えないよ。もしかしたら自分も暗黒の力に・・。」
 セシルはルゲイエを許せないとは思うが、同時に哀れに思った。
「かわいそうな人!どんなに優れた才能を持っていても、人間の心という一番大切な物を失ってはならないってわからなかったのね。」
 ローザのこの言葉は、リディアをハッとさせた。リディアはこの言葉を聞き、幻獣達が力や知恵だけでなく、心の正しさにこだわるのかわかったような気がした。

第16話 「戦友」
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