【27、魔導船】
セシル達はオーディンに言われるままに、ミシディアにやってきた。ミシディアの町は、いつもと違い誰も外に出ていない様子である。
「あの塔から人々の声がきこえているようね。みんなあそこに集まっているのでは?」
「あたしも何かすごい気を感じるよ!」
セシル達も以前見たときよりもクリスタルタワーから強いエネルギーを感じた。
「・・竜の口より生まれし者、天高く舞い上がり、闇と光をかかげ、眠りの地にさらなる約束をもたらさん。月は果てしなき光に包まれ、母なる大地に大いなる恵みと慈悲を与えん・・。」
聴覚に優れているネフティがクリスタルタワーから聞こえてくる声を聞き、それを自分も口ずさんだ。
「どういう意味だろう?」
「とにかく行ってみよう!」
セシル達はクリスタルタワーに向かった。
☆
クリスタルタワーの最上階には、国中の魔道士達が集まっていた。そして確かにネフティの言うような言葉を呪文のように繰り返している。
セシル達は一番見晴らしのいい場所にいる長老に話しかけた。長老は彼らをずっと待っていたようであった。
「クリスタルがゴルベーザの手に渡った今、古の伝説を信じるしかない。今その伝説の鯨を呼び出すために祈祷をささげておる所じゃ!おぬし達もここにきて心を込めて祈るがよい!!」
セシル達にも詳しいことは全くわからない。しかし今はそのことで質問できる時と場合でないことはセシル達にも雰囲気でわかった。5人も長老と同じようにあの言葉を呪文のように口ずさむ。
「竜の口より生まれし者、天高く舞い上がり、闇と光をかかげ、眠りの地にさらなる約束をもたらさん。月は果てしなき光に包まれ、母なる大地に大いなる恵みと慈悲を与えん。」
皆の祈りの声が海の底にまで響き渡る。海の底から巨大な渦が起こり赤い鯨が現れた。鯨は空高く舞い上がっていく。
「おお!あれが・・?!」
「伝説は本当だったのか!!」
ここにいる人々の歓声が沸き起こる。鯨は月の光を浴びてこの上なくまぶしく輝いていた。そして今度はゆっくりと緑の大地に降りてきた。その姿は神々しくさえあった。
「クリスタルが呼んでいる!」
セシルにはその鯨から何かの意思が伝わってくる。
「月に向かいなさい!お前を待っている。」
「この声は・・!!」
聞き覚えのある声だった。確かに、以前聖なる山の頂上で試練を受けた時に聞いた、哀しくも優しさに満ちた声だった。
「さあ、行くがよい!この世界の危機を救えるのは月の聖者だけなのじゃ!!」
「長老、一体月には何が?クリスタルとは?!その月の聖者とは!?」
セシルの質問の答えを長老は全て知っているようだった。しかし長老はその質問に答えず、セシル達を促した。
「その質問には月の聖者がすべて答えるであろう。行くがよい!時間がない!!」
セシルは、それ以上追求はしなかった。しかし行く前にポロムとパロムのことを伝えた。長老は静かにその話を聞くと、穏やかに言った。
「大丈夫じゃ。あの2人のことはわしに任せるがよい!!」
セシル達はさっそく鯨に乗り込んだ。
☆
鯨はよく見ると、生き物ではなく不思議な構造をした船だった。この船には仮眠をとるための回復ポッドがあり、なぜかデブチョコボまでいた。
「いよう、元気かい?」
デブチョコボはそう言ってさっそく普段あまり使わない道具を預かってくれた。
「どうしてこんな所にデブチョコボがいるのだろう?」
「便利でいいと思うぜ!難しいこと考えるな!!」
エッジは興味深そうに船を見回す。お宝でも積んでないかとひそかに探っている様子だった。
「セシル、あれを見て!!」
リディアが船の中央に大きなクリスタルが埋め込まれているのに気付き、指差した。クリスタルは不思議な輝きを放っている。
「この船は魔導船。月に行きたいならクリスタルに向かって念じるがよい!」
「その声はあの時の!あなたは一体・・?!」
クリスタルは確かに何者かの意思を持っているようである。
「この魔導船を作った者だ。」
クリスタルはそれっきりセシルに語りかけてはこなかった。しかし輝きが衰えることはなかった。セシルはクリスタルに自分の気持ちを念じた。
魔導船はゆっくりと静かに動き出した。しかしそれは実は光よりも速いスピードなのだ。魔導船は一瞬のうちに青い星から離れ、時空を飛び次元を超えて銀色に輝く月の地に降りていった。
・第28話 「幻獣神の使い」
・第26話 「幻界の聖騎士」に戻ります
・小説目次に戻ります
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