【第303話】
勇者の気持ち
ラダトームに帰還した私は約600人の選りすぐりの戦士達と共にルビスの塔に向かうことになった。船は、三隻ずつ、二つの方向からルビスの塔を目指す。一方が、海の魔王に捕まっても、もう一方がルビスの塔にたどりつける可能性があるからだ。
また、海の魔王に捕まった船の方は
途中に住みついている海の魔王の実状を調べることになった。
軍船に乗ってる人だけで用が足りると判断したら、海の魔王を倒す、最悪の場合が起きた場合、魔法使いによるルーラで少しでも多くの人間がラダトームに帰還することことを義務づけられた。
大きい船だ。軍船だけあって立派な船。船には食料などの荷物が詰め込まれている。私はそれを眺めていた。
「不安ですか?」
突然声をかけられた。プレートアーマーに身を包んだ戦士で
まだ若い男性で私と同じくらいの年のように見えた。
顔にはまだ若干子供らしい面影を残していた。
「えぇ・・・・不安です。 これからの戦いのことを思うと」
私は船を見上げながら答えた。
「そうですよね。僕も不安です。
本当に生きて帰ってこられるのか」
戦士は私の隣に立ち、同じように船を見上げた。
「今回ルビス様を救うためとはいえ、魔物の巣窟に足を運ぶわけですから。
勝てないと悟った場合、迷わず逃げていいという話しはうけていますが」
「あなたは、ラダトームの兵士の方なんですか?」
もしラダトームの兵士の方だったら王様から任務を受けてこの船に乗るのかしら。王の命令だったとしたら断ることもできると思う。他にも任務ということで船を乗る方もたくさんいるかもしれない。
「えぇ、そうですよ」
「断らなかったんですか?」
「まさか。自らこの船に乗ることを志願したんです。
この船に乗るものは全員自分から志願した者ばかりですよ。
あなたは違うんですか?」
「いえ・・・わたしは・・・・」
なんと説明をしていいのかわからず、口ごもってしまう。
「早く太陽を取り戻したい。
お袋やみんなの笑顔を見たい。
そしてラダトームやアレフガルドを平和にしてみたい。
そう思って志願しました。
しかし今の時代は生きるのにつらすぎる。
あなたのようなうら若き女性まで戦いに出られるのですから」
戦士は悲しそうに私を見た。
「そういえばこの船には勇者様も乗られるそうですね。
ラダトームに眠る太陽の石に光を呼び戻した勇者様も女性と聞きました。
メルキドの戦いでもその武勇を知られ、すご腕の戦士だとも。
その方はいったいどういうお気持ちで戦われているのでしょうね。
一度お目にかかりたいものです」
「・・・・・・・・そうですね」
私は少し間をおいて、そう答えた。思うことはたくさんある。だけれど、それを言葉に表すのは難しい。
平和を取り戻すための使命感とそれに対する犠牲・・・
「おっと、長々と失礼しました。
同じ船に乗ればまたいつかお目にかかることもあるでしょう。
がんばりましょう」
「・・・・生きてお互いラダトームの地にまた踏みましょう」
第304話 雷神の鎧
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