【第311話】

逃げ


ラダトームの軍船は何度も津波を受け

沈没の危機にさらされる。

どうにか耐えたものの目の前の光景に

船員達、いや私も含めてしばらく声を出すことができなかった。




「このような生き物がいるなんて・・・・・・」


目の前にそびえたつのは、今まで島だと思っていたもの。


しかしそれが海面から上昇した姿は生き物を象っていた。


「このような生き物がこの世に存在するなんて・・・・・・」


私は同じ言葉を繰り返した。


軍船の何百倍とも思われる大きな生物、

その生物には無数の足が生えていた。

私はこれがなんの生物かわからなかった。

しいていれば、大王イカに似ている。

しかし大きさはまったく比較にならない。

島と見間違うほどの大きさなのだ。


「間違いねぇ・・・・こいつが海の魔王だ・・・・」


船長はそれだけのことを言うとヘナヘナと座りこんだ。

腰が抜けたのだ。

あたりまえだ。私でさえ目の前の光景が信じられない。


こんな生物と戦って勝てっこない。

私でさえ、そんな失望感が沸き出てくる。


ライデインの一本や二本落としたところでダメージは皆無だろう。

ギガデインでもダメージを与えられるかどうか。

そのくらい圧倒的な大きさだった。


本当に、これは大魔王の配下なの・・・・

こんなものさえ手なづけてしまう大魔王ゾーマとはいったい・・・・・・


しかし今はそれを考えている場合じゃない。


「逃げましょう!」


私はすぐに決断した。

今の時点では立ち向かうすべがない。

勝てないとわかっている相手に立ち向かうのは勇気じゃない。

無謀と言うのだ。


今は立て直して対策を練ってからここに来るのが得策だ。

ここで死んでは何もならない。

私は船長を立たせた。


しかし敵もそれを待ってくれなかった。

一本の足が、天に上がったかと思うとものすごい勢いで

海面をたたいた。


あまりの凄まじい衝撃で海面は割れ、

それは軍船に向かい、一撃で

私たちが乗っている軍船をまっぷたつにした。


「キャァ!!!」


私は必死に船にしがみついた。

船は両脇に避け、みるみる沈んでいく。


このままでは全員が水の中に放り出され

沈没の渦にまきこまれて死んでしまう。


「このままでは船が沈んで全滅よ!

 ルーラが使えるものは

 できるだけ多くの人と一緒にルーラで逃げて!!!」


私は思いっきり叫んだ。


第312話 頭に響く声

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