【第350話】
行方しれずのはぐりん
ラダトームに戻った私は王に面会を求め、ルビスの塔で起きたことを語った。ルビス様を救ったこと、しかしその犠牲はとても大きかったこと。急ぎ出発しようとする私を王は引き留めささやかながら宴を開いてくれた。
今回はドレスを着るようなこともなく、湯で体と髪を洗い、新しい服に着替えただけだ。私は腰に王者の剣を一本差しただけで鎧と盾を王から与えられた部屋に置き、宴に出た。
気のせいか城の窓から遠くを見るとラダトームの街の方に明かりがいっぱい灯っているようだ。
そのことを宴中、王に聞いてみた。
「街の方にもルビス様が解放されたことを伝えてある。
街もこれから祭りをするのだろう」
ルビス様の封印が解けたことは瞬く間にラダトームの城から街へ伝わったようだ。他の街にも通達が行くのも時間の問題だろう。
それは良いことだ。人々が絶望に苦しまれている時に望みができる、希望ができる、それは生きる活力となる。
「それと、先程お主が言っておった仲間のはぐれメタルの件だが
残念ながら見かけたものはいないそうだ」
宴に出る前に王にはぐりんのことを帰還してきた兵士に聞いてくれるよう頼んだのだ。
はぐれメタルの連れがいるので探してほしいと話したときは王もびっくりされていた。
しかし事情を話し、はぐりんが大切な友達であることを伝えると
理解してくれ、兵士達に聞いてくれたのだ。
だがはぐりんの行方は未だわからずだった。
「そうですか…」
落胆してしまう。はぐりんは水の上に浮かぶことができるから溺れるということはないとは思う。
だが、あのクラーゴンの領域から逃れるとしたら大波にもまれていったいどこにたどり着くかわからない。運良く島に漂流したとしたとしてもずっと私と一緒に旅をしていたからアレフガルドの地名くらいは覚えているだろうが自分がどこに迷い込んだかはわからないだろう。
ラダトームに戻り、ガライさん達と共にルーラで帰還していればまだ助かっている可能性があると思いルビスの塔に突入したのだが、はぐりんと会える機会はさらに少なくなった。
私は森の中で一人ふるえているはぐりんを想像していてもたってもいられなくなった。
今すぐ旅立ったところで、どうにかなるわけではない。これから行く南の精霊の祠はクラーゴンがいた海域から距離がものすごく離れている。はぐりんがいる確率は皆無なのだがしかし何か行動をしなければ落ち着かなかった。
「王様…やはり、私は…」
すぐにでも旅立つという話をした。王はしばらく考え込んでいたようだった。だが最後は私の気持ちをわかってくれた。
「お主が仲間のはぐれメタルが気になるのはわかった。
すぐにでも平和を取り戻したいという気持ちもな。
そこまで言うのなら仕方ない。
水・食料・それに薬草など、必要なものは既に用意をさせてある」
王は私が旅立つことが、わかっていたかのように力強く頷いた。私は王に頭をさげ、宴の間を退出した。
第351話 毒の沼地
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