【第365話】

善と悪


それぞれのスライムにはそれぞれの歴史が存在した。

そしてはぐれメタルはルビス様に向かえられた心優しいスライムだった。

私ははぐりんの話に感動した。




「このようにスライムが多種族なのは歴史があって

 ぼく達はぐれメタルは元々ルビス様に仕えるスライムなんだ」


「スライムってすごく素敵な種族なのね」


「そう言ってもらえて嬉しいよ。


 …でもね、チェルト。

 ぼく達スライムは一般には魔物達からは弱いとして迫害され

 大半の人間からもただの魔物として敵とされたんだ。

 それをボク達スライム一族は忘れることができない」


はぐりんの顔が厳しい顔になった。


「………」


「チェルトは偶然、ぼくとわかりあえた。

 そして君が魔物達と戦うときも命の尊さを考え

 戦ってきたことも知ってる。

 でもやはり人間と僕たち魔物との溝はまだ大きいと思う。

 わかりあえる種族ではないのかと…」


はぐりんの顔が今度は悲しげな顔になった。

その顔があまりにも寂しげで私はその言葉を否定した。


「そんなこと……ないよ…」


「僕たちは偶然だった。

 チェルトが清い心の持ち主だってこともあるけれど

 でもね…スライムの歴史を知る人間だっていないだろうし

 やっぱり魔物は人間に忌み嫌われている」


「それは魔物が人間を襲うから…」


「それもあると思うよ。でも本当にそれだけなの?」


はぐりんは心を見透かすように私を見つめた。


「魔物にはそれぞれの魔物が存在して、それぞれの過去がある。

 たとえばホイミスライムやベホマスライム、

 彼らは被害者なんだ。


 当時、魔王に操られた魔物達は今と同じように戦いにかりだされていった。

 しかし戦いの中、傷つくものも多く癒しの使いがすくなかった魔王軍は

 それを補おうと、目をつけたのがスライムとスライムベスだったんだ。

 数が多いスライムは魔王軍にさらわれた後、眠らされながら変な薬につけられてしまった。

 薬の効果で改良をされたスライム達は浮力と足と魔力を手にいれた。

 自分の意志とはまったく関係なくね。 

 それが後にホイミスライムとベホマスライムと呼ばれるようになるのだけれど

 ほとんどが人間との戦いの中で命を落としたりいるんだ」


「………」

 

「魔王が操ったから被害は出た。

 たくさんのスライムが命を失った。

 でも戦い、命を奪ったのは人間。

 どっちが悪でどっちが正しいのだろうね?」


「………」


私ははぐりんの問いにすぐに答えられなかった。


「人間にスライムの歴史を理解してと言ってもそれは無理かもしれない。

 そもそも敵対しあっていた種族なんだから。

 操っているのは魔王、利用するのは魔王、

 でも命を奪うのは人間。

 スライム族にとって有害なのはどっち?

 人間はそれを理解する機会もない。

 ボク達を”魔物”として戦う

 …人間って本当に正しいのかな?」


「それは…」


「魔物が人間を襲う、それは魔王が魔力によって束縛していることが多いよ。

 でもロマリアを思いだして欲しい。

 魔物達は人間の賭けの対象になっていた」


「………」


「人間はすべての人がチェルトみたいに純粋な人ばかりじゃない。

 ぼく達スライムは、魔王に操られても、

 人間からみても結局は同じ扱いなんじゃないのかって。


 遥か昔、神は地上に人間達を住ませ力を与えた。

 その結果人間は、地上で一番の力を得た。

 でもね、またチェルトが生まれるずっと前、

 人間は戦を数えきれないほどしてきてお互いに傷つけあってきた。

 それは宗教上の違いや

 人間同士が理解できないものもいるのに

 多種族が理解しあえるのか…てね」


「うん…」


「本当に人間は正義でいられるものなのか。

 そもそも正義ってなんなの、正しいことっていったい…


 大魔王ゾーマがいけないことをしているのはわかるけれど

 ゾーマが倒れた後、今の人間達は果たして正しい道に向かっていけるのか」


そこまで言うとはぐりんは黙った。


はぐりんが言いたいことはなんとなくわかる。

はぐりんが言っていることに反論は思いつく。

しかし当てはまっている部分も確かにあり、

人間に否がないとは言い切れないのも確かなのだ。


私は人間の立場から見て行動をしてきた。

人間の世界を救うために。


しかし、その「人間の世界」というのが既にエゴだ。

私達は自分達からの立場からしか物事を見ていないことが

あまりに多いのではないだろうか…今更ながらそれに気づかされた。


第366話 大魔王を越える力

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