【第366話】
大魔王を越える力
はぐりんから語られるスライム一族が人間に対して感じる想い。それは人間と魔物は理解しあえないのではないかということだった。はぐりんの言葉に反論は思いつく。しかし事実であるのもまた確かなのだ。スライムからとってみれば、命を奪う存在が他の魔物であり、人間でもある。それは恐怖の対象でもあるのだろう。
私ははぐりんが言っていることをよく考えた。
今まで数多くの魔物を殺してきた。特にメルキド対戦やルビスの塔での戦いは凄まじく凄惨なもので戦いというより、殺し合いと呼ぶほどひどいものであった。
私は魔物を倒すたびに言うことのできないモヤモヤとしていたものが心に常にあった。
魔物とて悪ではなく善となるものは確かに存在する。はぐりんであり、はぐりんが聞かせてくれたはぐれメタルの歴史であり、スライムにも数多くの善の存在がいるのだろう。
以前ルビスの塔に行く途中に出会ったクラーゴンも人の心を理解することができ、悪の存在とは言えない。大魔王にその力を利用されただけだ。
またはぐりんは、魔物にも善である存在があるということを私に気づかせてくれた。はぐりんと友達になれた。種族が違うのに親友になれた。
そんな魔物がいる可能性もあるのに、命を奪う。
だからこそ、戦う前にためらう。しかし人間が生き残るために戦わなければいけない、非情にならなければいけないと割り切り自分の種族、すなわち人間を救おうという想いを優先させる。
命を奪わなければ、襲われる、だから戦う。お互いの種族が自分達の存在を守るために命を奪い合う。
何故…何故人間と魔物は理解しあえないのだろう…言葉が違うから?いや、違う。自種族を守ろうという意識が強く互いに理解しあおうとしていなかったからだ。
お互いが敵と決めつけていたからだ。
私は…彼ら魔物の存在を人間に理解しようとつとめなければいけない。
しかし一般の人の魔物への拒否反応は強い。この暗黒に包まれたアレフガルドに魔物への善を解いてもどうやって理解してもらえばいいのだろう。
そして、最後の戦いが迫っている。例え魔物に善なる存在がいても、大魔王の存在を許すわけにはいかない。その大魔王こそが人間と魔物の境界を立っている存在の1つであるからだ。大魔王の魔力によって我を失い凶暴化している魔物をまた数多く奪うことになるだろう。
だからこそ…私は大魔王ゾーマを倒し、そして倒した「後」のことを考えなければいけない。はぐりんは私にそのことを伝えたくてスライムの歴史、そしてスライムが人間に感じている恐怖感を話したのではないだろうか。
「はぐりん…あなたの言っていることは確かにスライム族 いや、魔物の立場から見て理解できたわ。
私にできること、それは人間と魔物の境界をはっている理由の大魔王を倒すこと、 そして…その後人間と魔物がいがみ合うのではなく 共存できる世界…それを目指したい」
はぐりんはその言葉を聞いて、にこやかに笑った。
「その言葉を聞いて安心したよ。
君には力がある。
神やルビス様に選ばれし者であり、善なる存在だ。
しかし君の力は人間が持つには巨大だ。
バラモスを倒した時は君の存在もゾーマにとってたいしたものではなかったのかもしれない。
しかし聖なる神具をすべて揃え、ルビス様も復活させた君は
大魔王ゾーマも君の存在を無視できないだろう。
それほど君は力を持った。
こんなことを言うのは早いかもしれないが
君がもし…大魔王ゾーマを倒すことができたとき
それは君がその大魔王を越える力を持つことになる。
人々は最初は平和を取り戻した君を英雄として扱うだろう。
しかし徐々に人々は気が付くはずだ。
もし君に心代わりがあれば…君は大魔王よりも恐ろしい存在となりうることを。
君の名声と力があれば一国を制服することもたやすくできる。
その君の巨大な力は世界を左右する力なんだ」
はぐりんの言葉を聞いて私は初めて自分が持つ力というものを意識した。自分が邪悪な大魔王ゾーマを倒そうと高めていった力とゾーマが振るう力。それは使い方が違うだけであって、結局は力に代わりがないということ。
「君が自分の力を悪いことに使わないことは知っている。
しかし、全世界にいる魔物を掃討したりしないとは言い切れないし
何かがキッカケで君への心の変化があるかもしれない。
だから君に考えてもらいたかったんだ。
自分がこれから何をするのか、それをはっきりと。
そしてそんな君だからこそ、ボクも君に後を任せることができる」
第367話 はぐりんの正体
前ページ:第365話 「善と悪」に戻ります
目次に戻ります
ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります