【第415話】 キングヒドラ戦5
大魔王ゾーマ。奴の姿は闇そのものであった。ゾーマは条件を出す。キングヒドラを含める配下をすべて倒したときこそ姿を表してやると。
ゾーマの声が消えると闇が消え、周りが明るくなった。突然の光に思わず目を細める。
どうやら大きな広場に変わったようだ。無機質な壁に囲まれた部屋の中央には赤い鱗を持つ巨大な魔物が待ち構えていた。
キングヒドラである。先ほど二本の首を失っていたにも関わらず、もう回復していた。ヒドラの持つ脅威的な回復力なのか、それとも大魔王による力なのか。
”小娘、待ちわびたぞ。 貴様に受けた傷、忘れん”
「私だって、忘れない。 父さんを殺して!」
”貴様の父など知らん”
「さっき、おまえと戦ったのが私の父よ!」
忘れようとしていた怒りがふつふつと蘇る。目の前で父親を殺され、すぐに立ち直れる感情を私は持ち合わせていなかった。
”そうか、丁度良い。 親子共々地獄に送ってやる”
キングヒドラは天に一声吠えた。そして私に向かって突進してくる。巨体に似合わず、素早い動きで間を詰めてくる。
キングヒドラの咆哮はサラマンダーと同じように私を呪縛したが、魔力を高め爆発させた。衝撃波を放ち、呪縛から解き放たれる。
王者の剣を身構えると、キングヒドラは炎をはきかけてきた。私は炎を横にかわしながら、余波は受けるがままにする。身体が焼けるが、かまわない。火傷による痛みを押し殺し、強引に前に出た。
そのまま首を切り落とそうとするが刹那、真横に嫌な予感がし、私はとっさに身を屈めた。上をキングヒドラの首が通りすぎる。危なかった。以前はこれがかわせずカンダタを犠牲にしてしまった。
カンダタが私をかばってくれた痛々しい姿を思い出す。
何故私はここまで来たの。ここまで来るのにどれだけの人が私を助けてくれたの。失敗は許されないのだ。冷静にならなければ勝てる相手ではない。
そして復讐は何も生み出さない。父のことで頭に血がのぼっていたが落ちつけと自分にいいきかせる。
私は屈みながらの体制で剣を上に突き上げた。通り過ぎようとしているキングヒドラの首をカウンターで王者の剣で切り裂くつもりだった。しかしキングヒドラの動きは早く、捕らえることができない。
再度キングヒドラは炎をはきかけたが、横にかわしながら今度は余波を丁寧に勇者の盾で防御した。先ほど受けた火傷は痛むが、光の鎧と命の指輪が徐々に回復してくれているので痛みは和らいでいる。
”チョコマカと動きおって、鬱陶しい!”
キングヒドラはさらに炎を吐きかけてくるが、交わし続けた。そして間合いを詰め、剣が届く接近戦に挑む。だが巨体の割りに動きが早く、なかなか間合いに入れない。さすがに今までの敵とは違う。
よくこのキングヒドラから父は二本の首を切り落としたものだ。以前、稲妻の剣で切りつけたが、稲妻の剣ほどの魔力を帯びていても切り落とすことができない強度な鱗を持っているのだ。
父は王者の剣も持っていなかったし、勇者の盾で炎をはじくこともできなかったはずだ。父の強さを改めて感じながら、巨大な敵に戦いを挑んだ。
第416話 キングヒドラ戦6
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