【第422話】 バラモスブロス戦5
私とバラモスブロスの呪文は同時に封じられた。接近戦では分があると感じた私は王者の剣を構えながら突進した。後一歩のところで刃が届くというところで、バラモスブロスは奥の手を使った。激しい炎は、私を焼き尽くそうとする。
意識は朦朧とするが、火傷の痛みだけは感じる。
終わりたくない。ここまで私を導いてくれた人のためにも終わりたくない!
私がそう感じた瞬間、胸に聖なる守りと一緒にかけておいた賢者の石が青い光りを発した。
”なんだ、この光は!”
バラモスブロスが動揺の声をあげる。青い光は私にまとわりついている炎を消し去った。そして光はそのまま私を包み込んだ。
不思議なことに鎧の中の私の焼け爛れた肌が次々と癒えていく。
「これは…」
私の魔法は封じられているのに。この力は父さんがくれたの?
”まさかその光は…竜の遺産か!”
竜の遺産?竜ということは、竜騎士や竜の女王様などが関係してくるのだろうか。だんだんと意識もはっきりしてくる。そして青い光はやがて消え、私の傷を完全に癒した。
父がどのようにして、この不思議な石を手に入れたのかは知らない。でも私の命を救ってくれたのは事実だ。
父さんが見守ってくれている。そんな気がした。嘘でもいい。でもそう思うことが私に力を与えてくれた。
「ありがとう、父さん」
私は小さくつぶやくと再度バラモスブロスと対峙する。今度は王者の剣を構えながらも、勇者の盾を前面に押し出しじりじりと間合いを詰めた。
”懲りずに立ち上がりおって!”
バラモスブロスは苛立ちの表情を表しながら、また炎をはきかけてきた。しかし今度は横に避けながら、余波を丁寧に勇者の盾ではじく。そうだ、これでいい。
今までの必勝パターンで私は炎を避ける。炎を吐きかけてくる敵にはこの方法で無傷で対処できる。あせっちゃダメだ。
私には敵を倒すための武器が与えられている。防具も与えられている。そして膨大な戦いの経験を積んでいる。それを使いこなせばどんな敵でも勝てるはずなんだ。みんなが守ってくれているのだから。
それで勝てないのは、私の力が足りないから。力を引き出すには冷静かつ確実に行動を起す。
私は目の前の敵をしっかりと見据え、徐々に間合いを詰めていた。
”小癪な!”
バラモスブロスは炎を吐き続けるが、私には当たらない。そして剣の間合いが届く位置まで迫った。しかしこちらからは攻撃を仕掛けない。
バラモスは炎で埒が明かないと思ったのか巨大な腕を振るった。そこには鋭い爪がついている。切り刻まれたらタダではすまないだろう。
だが、今頃になってただの爪による攻撃を受けるはずが無い。私はその攻撃に合わせてカウンターで王者の剣を振るった。
飛び散る血。ぼとっと落ちる、バラモスブロスの腕。
バラモスブロスは呆然と自分の失った腕を見つめている。私は隙を見逃さずバラモスブロスの足を狙って剣を凪いだ。バラモスブロスは体制を崩す。
後は一方的な戦いだった。私の剣がバラモスブロスの心臓を捕らえるのに一分とかからない。
バラモスブロスの絶叫が響き渡った。
第423話 賢者の石の秘密(執筆完了)
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