スクープ! 王女アリーナ、恋人と密会!?(8月1日 サントハイムスポーツ一面)
アリーナ王女が城のテラスで男性とお茶している現場を激写。
ケーキとお茶を楽しみながら、楽しそうに談笑している。どうみても、恋人同士の語らいとしか見えない。
しかし、この件につき、サントハイム宰相付報道官は、「写真に写っている男性は、殿下の相談役である王宮付神官クリフト。おそらく、殿下から何らかのご相談があったのだろう。殿下は、臣下の者たちにも分け隔てなく接する寛大な御心の持ち主なので、このようなことは珍しくない。特に、殿下とクリフトは幼いころからの主従関係でもあり、殿下もクリフトには大いに信頼をおいている」とコメント。「報道されているようなことは、一切ない」と、恋愛関係を全面否定した。
どうにも怪しいと思うのは私だけであろうか? 報道官の「幼いころからの主従関係」という言葉がどうにもひっかかる。それは、すなわち、二人が幼馴染であるということの言い換えに過ぎないからだ。幼馴染カップルはそんなに珍しいことではない。
今後も、真相を探るべく取材を継続する。
王女アリーナ、サランでデート!?(8月20日 サントハイムスポーツ一面)
アリーナ王女とクリフト氏が連れ立ってサランの町を歩いているところを激写した。
さらに幸運なことに、二人への直接取材も実現!
「今日はまた、サランにどんなご用件で?」
(アリーナ)「裁縫の授業とかいうのが嫌で、城をこっそり抜け出して羽を伸ばそうと思ったんだ。番兵にはうまく見つからずに抜けられたんだがなぁ。こいつが、先回りしてやがった」
王女は、クリフト氏を指差した。
(クリフト)「姫様。いい加減に、お城にお戻りくださいませ。裁縫の授業の時間は過ぎましたが、今戻れば、次の料理の授業には間に合います」
(アリーナ)「やだ」
(クリフト)「わがままばかりおっしゃられては困ります」
「先回りされていたということですが、予測していらしたということですか?」
(クリフト)「恥ずかしながら、このようなことはよくあることでして……。姫様の逃走ルートはだいたい分かっておりますから」
その間に、王女がこっそりと離れ、いきなり走り出した。
(クリフト)「あっ、姫様! お待ちください!」
クリフト氏も、あとを追って走り出す。
私も、あとを追ったが、あまりにも速くて追いつけなかった。やはり、世界を救った英雄たちである。身体能力は並ではないようだ。
仕方ないので二人への取材は打ち切り、私はサランの住民たちに取材を行なった。
二人のあのようなお姿は、よく見られるとのこと。
そして、住民たちは一様に次のような発言をした。
「あれは、どう見ても、姫と従者にしか見えないよ。恋愛関係があるようには全く見えないね」
確かに、私も同じ感想をもったが、どうにも引っかかる点が一点だけあった。
アリーナ王女は、男まさりのおてんば姫の風評どおり、恋愛ごとには興味がなさそうに見受けられた。その点は間違いない。
問題は、クリフト氏の方だ。私の長年の記者経験からして、彼は表面をうまく取り繕うことに慣れているように見受けられた。クリフト氏については、さらに取材してみる必要がありそうだ。
アリーナ王女の縁談、密かに画策!? アリーナ王女に反撃の秘策はあるか!?(9月12日 サントハイムスポーツ一面)
サントハイム政府筋によると、サントハイムの貴族のうちいくつかの派閥が、アリーナ王女の縁談を密かに画策しているとのこと。
しかし、あのアリーナ王女が、貴族方が押し付けてきた縁談に素直に応じるとは思えない。現に、連日、クリフト氏となにやら相談しているらしいとのこと。
破天荒な王女であるから、みんながあっと驚くような反撃の秘策があるのかもしれない。
今後の展開に目が離せない。
サントハイム王宮付侍女に独占取材!(9月25日 サントハイムスポーツ一面)
某日、サントハイム王宮付侍女への匿名での独占取材に成功した。
「さっそくですが、正直なところ、アリーナ王女のことはどのように思われていますか?」
(侍女)「確かに、おてんばで破天荒な姫君ではいらっしゃいますが、私は好きですよ。王宮に仕えている者全員がそうだと思います。あの方がいらっしゃるだけで王宮内が明るくなりますもの。それに、お優しいお方でもあります。下々の者には、失敗を姫様にかばっていただいて、首をつないだ者が大勢おりますよ。かくいう私も、一度だけ大失敗をかばっていただいたことがありました。いまだに、侍女として勤めさせていただいているのは、すべて姫様のおかげです」
「なるほど。破天荒な姫君といわれながらも、絶大な人気があるのはその辺のお人柄なのですね。ところで、貴族方がアリーナ王女の縁談を進めておりますが、これはどう思われますか?」
(侍女)「うまくいくとは思えませんね。姫様もあのご性格ですから、すべて蹴られてしまわれるでしょう」
「しかし、お世継ぎの問題もありますから、いつまでも先延ばしというわけにもいかないのでは?」
(侍女)「そうですね。姫様は、いったいどうなさるおつもりなのか……。クリフト様とは連日ご相談のようですが……」
「そのクリフト氏のことなのですが、王宮内でのお勤めぶりというのはいかがなものですか?」
(侍女)「大変ご立派ですよ。あのおてんば姫に振り回されつつもなんとかついていけるのは、クリフト様かブライ様ぐらいのものです。非常に聡明ですし、姫様のお心もよく分かっていらっしゃいますから、ご相談役としては最適なのでしょうね」
「ぶっちゃけた話ですが、8月1日付けの我が社の紙面の一面についてはどう思われました? 私も直接お会いして、正直なところ、アリーナ王女は恋愛ごとには興味がなさそうに見受けられましたが、クリフト氏の方はどうでしょうか?」
(侍女)「クリフト様は、モテる方ですよ。でも、いいよる女性は、ことごとくフラれてますね。ご本人は、神への愛うんぬんといった言葉で言い訳していますが……」
「もしかして、クリフト氏には、既に心に決められたお方がおられると?」
(侍女)「これ以上は、いくら匿名でも、外部の方に申し上げることはできません。ご察しください」
侍女は、深々と頭を下げると、そのまま席を立った。
憶測でしかないが、クリフト氏は、やはり……?
アリーナ王女駆け落ち疑惑!?(10月2日 サントハイムスポーツ一面)
サントハイム王宮内に、アリーナ王女駆け落ちの噂が駆け巡った。
噂の発信元は、どうやら侍女グループあたりらしい。
噂を聞きつけた貴族たちが、国王に詰め寄るなど、王宮内は大騒ぎだったようだ。
取材を申し込んだ報道各社に対して、サントハイム宰相付報道官は記者会見を開いた。
「アリーナ殿下は、相談役であるクリフトとともに、旅に出られた。用件は、かつて一緒に世界を救ったご朋友への個人的なご訪問である。御付の者がクリフト以外にいないのは、個人的なご訪問という性格上、殿下がそれを拒絶されたからである。クリフトは、世界を救った仲間の一人でもあるから同行することとなった」
「そういうことなら、ブライ閣下もご同行なされるのが筋ではありませんか?」
「ブライ閣下は連日外せないご公務が入っており、やむを得ずお残りになることになった。ご朋友方には、既にお詫びの文書を送付してあります」
「ならば、駆け落ちというのは誤解だということですか?」
「下々の者たちの根も葉もない噂に過ぎません。このような戯言に振り回されるとは貴族たちもなさけないこと極まりないと、陛下も仰せでございました」
報道官はきっぱりと否定したが、やはり二人っきりの旅というシチュエーションはどうにも怪しすぎる。侍女たちがあれこれと噂するのも無理はない。
それに、当初はそのつもりはなくても、二人っきりで旅していれば、ひょんなことから進展ということもありうる。
ご朋友への訪問日程は一週間ほど。しばらく様子を見るしかなさそうだ。
電撃発表! アリーナ王女ご婚約! お相手は!?(11月5日 サントハイムスポーツ一面)
昨日夕方、アリーナ王女のご婚約が電撃発表された。
お相手は、王女の相談役であるクリフト氏。既に、世界を救った功績から、貴族の称号を付与されたとのことである。
貴族方への説得は内密に進められたようで、それらの動きは我々報道関係者には一切漏れ伝わってこなかった。記者としては悔しい限りだが、一国民としては、喜ぶべきことであろう。
各国王家からは、祝福の書状が殺到しているとのこと。
サランの町の住民にも取材してみたが、みな一様に喜んでいた。
気の早いの者たちが、既にお祭り騒ぎを始めている。
御婚姻の儀の予定は、12月1日より3日間。それまでずっとお祭り騒ぎが続きそうだ。
以下は、ご婚約会見の内容。
「このたびは、ご婚約おめでとうございます。さっそくですが、アリーナ殿下は、クリフトさんのどこがお気に召されたのでしょうか?」
(アリーナ)「どこが、っていってもなぁ。小さいころから一緒だったし、うーん……。まあ、なんだ。こいつが側にいないに色々と困るし、私のことを一番に思ってくれるのもこいつしかいないからな」
ここでクリフト氏が、真っ赤な顔でうつむいた。
「では、クリフトさんに質問しますが、アリーナ殿下のどこに惹かれましたか?」
(クリフト)「すべてです」
「それはそうなのでしょうけど、あえて、あげるとしたら?」
(クリフト)「申し上げてもよろしいですが、言い終わるころには、明日の朝になってしまいますよ」
会場が爆笑に包まれた。
さすがにあの破天荒な姫君の夫となる者だけあって、受け答えもなかなかのものだ。
「さすがに、それはご勘弁願いたいですね。では、質問を変えましょう。プロポーズは、どちらから、どのような言葉で?」
(アリーナ)「クリフトからだが……」
王女がクリフト氏をチラッと見た。
クリフト氏がまた真っ赤な顔でうつむく。
(アリーナ)「まあ、それは言わぬが花だ。ここで言ったら、こいつが卒倒してしまいそうだ。二人だけの秘密ってことで勘弁してくれ」
「分かりました」
「お子様は、何人ぐらいがご希望ですか?」
(アリーナ)「それは、クリフトとも相談しなきゃ決められんな。クリフトは何人ほしい?」
(クリフト)「いや、そ、それは……コウノトリのご機嫌次第ということで……」
「なるほど。コウノトリのご機嫌がよろしいことをご祈念申し上げます」
「最後の質問です。アリーナ殿下。今、クリフトさんに一番してほしいことは何ですか?」
(アリーナ)「さっさと着替えさせてほしいな。ドレスはどうにも窮屈でたまらん」
会場はまたまた爆笑に包まれた。
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