2.モンバーバラの姉妹

モンバーバラ劇場の前で、ミネアが待ち構えていた。
(ミネア)「お待ちしておりました」
(アリーナ)「あれ、こっちに来ることは言ってなかったはずだけどなぁ。いきなり行って驚かせてやろうと思ったのに」
(クリフト)「ミネアさんの占いの腕前をもってすれば、我々の訪問などすぐに分かるのでしょう」
(ミネア)「まあ、そういうことです」
(アリーナ)「つまんないの」
(ミネア)「ささ、姉も待ちかねております」
 楽屋に行くと、マーニャが椅子でふんぞり返っていた。
(マーニャ)「久しぶりじゃん。元気にやってたかい?」
(アリーナ)「ながの無沙汰すまない」
(マーニャ)「いいっていいって、お姫様じゃ、そう簡単に外にでられないっしょ。ささ、座って座って。夜のステージまでは時間があるから、ゆっくり話しようじゃないか」
 その後数時間にわたって、いろいろな話題で盛り上がった。
(マーニャ)「ところでさぁ、あんたら二人の仲は進展ないわけ?」
(クリフト)「はて、進展とはなんのことでしょう?」
 クリフトは、かつての旅でさんざんからかわれたときの返答をそのまま返した。
 アリーナは、なんとも複雑な表情のまま固まってしまった。
 クリフトは、冷静な仮面をかぶることになれている。
 しかし、アリーナは、感情が出やすいタイプだ。抱えている問題が問題だけに、とっさにかつてのような対応することができなかったのだ。
(マーニャ)「相変わらずの堅物だね」
 マーニャは、チラッとアリーナの顔をみた。
(マーニャ)(おや。少しは脈あり?)
 だが、その表情をよく観察するうちに、違う感想をもった。
(マーニャ)(なんか、悩んでるね)
 雰囲気を察したのか。ミネアが話を別の方向にもっていく。
(ミネア)「姉さん、ひとのこといえるのかしら?」
(マーニャ)「なによ?」
(ミネア)「世界一の朴念仁に懸想しながら、まったく進展のない人は、どこのどなただったかしら?」
 すべての見透かした表情で、ミネアはそういった。
(マーニャ)「フン」
 マーニャはふくれっつらで、そっぽを向いた。
(クリフト)「まあまあ、お二人とも喧嘩なさらずに、ここは久しぶりの再開に免じて」
(マーニャ)「ああ、分かったよ」
(アリーナ)「ククク、ハハハハ」
 アリーナが突然笑い出した。
(マーニャ)「何がおかしいのさ?」
(アリーナ)「今のやり取り。あのときの旅でも、似たようなことがあったなと思ってな。マーニャさんとミネアさんが喧嘩して、クリフトが仲裁ってやつ」
(クリフト)「そういえば、よくありましたね」
 そこで、四人の爆笑となった。
 夜、マーニャのステージを鑑賞したあと、四人はそれぞれの部屋で眠りについた。いや、そのはずであった。

 クリフトは、あてがわれた部屋を密かに出ると、ミネアが占いを営業している小屋に向かった。時間的にいえば、既に終了時間のはずであるが、クリフトには確信があった。ミネアならば、すべてを見通し、先回りして待っているに違いない。
 その予想は、見事にあたっていた。
(ミネア)「お待ちしておりました」
(クリフト)「やはり、お見通しでしたのですね」
(ミネア)「あまり趣味のよい能力とはいえませんが。しかし、サントハイムの国王陛下も随分と理不尽なご命令をお下しになりましたね」
 すべてを見通されている。そう予測できていても、今の言葉はずっしりと響くものがあった。
(クリフト)「お導きの道しるべを示していただけませんか?」
(ミネア)「それを示すのは、本来なら神職たるあなたの役割ですよ」
(クリフト)「私は、まだ未熟な見習いですので」
(ミネア)「私にいえるのは、一つだけです。あなたがどのような行動を起こすにせよ、そしてどのような結末を迎えるにせよ、機会は今回しかないということです。いいですか。機会は一回だけです。二回目はありません。そのことをよく考えて、行動を起こしてください」
(クリフト)「分かりました」
(ミネア)「ごめんなさいね。こんな当たり前のことしかいえずに。占いというのは、親しい関係であればあるほど、見えにくくなっていくものなのです。だから、自分のことはまったく分からない。肉親のことはほとんど見えない。大事な友人であればあるほど、あいまいなことしか見えなくて……」
(クリフト)「いえ、充分です。ありがとうございました」

 アリーナは、夜の公園のベンチで考え事をしていた。さすがのモンバーバラも、この時間になると誰も外にはいない。
 考え事はまったくまとまらなかった。クリフトのことは、考えれば考えるほど訳が分からなくなってくる。
(マーニャ)「お姫さん、こんな夜中にこんなところでどうしたわけ? 恋のお悩み?」
 マーニャがからかい口調で、話しかけてきた。
 恋のお悩み。外れてはいるが、完全にずれているというわけでもない。
 アリーナは、サントハイムで今起こっている問題についてあらいざらい話した。
(マーニャ)「で、あんたの考えはどうなのさ?」
(アリーナ)「押し付けられた婿なんか、とる気はない」
(マーニャ)「なら、話は単純じゃん」
(アリーナ)「そんな単純には終わらない。じゃあ誰を婿にとるつもりですか、って言われるのははっきりしてるからな」
(マーニャ)「で、お姫様のお気に召す相手はいるわけ?」
(アリーナ)「今のところはいないということにしておく……」
(マーニャ)「あんたにしちゃ、歯切れが悪いね。もしかして、神官君?」
 アリーナは、ため息をひとつついた。
(アリーナ)「あいつは、忠実な臣下だ。私が子供だったときからずっと。優秀な奴だよ。私の生活は、あいつなしでは成り立たない。そういい切ってもいい。あいつが私に好意をもっていることは前から知っていた。でも、私はそのことについて考えることを避けていた」
(マーニャ)「どうしてさ?」
(アリーナ)「この問題に深入りすれば、あいつを私のもとから遠ざけることになるかもしれない。そう思ったからだ。さっきもいったが、あいつなしでは私の生活が成り立たない。だから、絶対に手放したくはなかった。だから、あいつが私から遠ざけられるような口実を作る可能性があることは避けたかった。だから、考えることを最初から拒絶していた」
(マーニャ)「それって……」
(アリーナ)「私の我がままだ。だけど、あいつは、その我がままに忠実に答えてくれた。すべてを察して、私との微妙な距離感を維持してくれた。それが、あいつにとってどれだけ苦痛なのかは、分かってはいた。まったく、酷い主君だ。臣下をあんだけ苦しめてまで、自分の我がままを押し通すなんて。早く決着をつけていれば、あいつももっと幸福な人生が送れたかもしれないのに……」
 アリーナは、今にも泣きそうだった。
(アリーナ)「今回の件は、よい機会だ。なにもかも決着をつけてしまわなきゃならん。あいつをこれ以上不幸にしないためにも」
(マーニャ)「で、結局のところ、あんたの気持ちはどうなわけ?」
(アリーナ)「それが分からないから困ってるんだ。ずっと考えることすら避けてたから、いざ考えてみようと思っても、いったい何から考えればいいのかすら分からない」
(マーニャ)「今日のあんたは、本当にらしくないね。感情のままパパッと行動ってのがあんたの取り柄でしょ」
(アリーナ)「じいは、それが短所だとはっきりいうけどな」
(マーニャ)「好きか嫌いかなんて、感情の問題だよ。パパッと答えが出ない方がおかしいよ」
(アリーナ)「それが分からない……」
 マーニャは、天を仰ぎ見た。
 このお姫様は、元来鈍感だったわけではないのだ。そのフリをしてきただけ。でも、それが長いことを続いてきたために、元来そうであったかのように身に染み付いてしまっている。
 このお姫様は、自分の感情にさえ、鈍感になってしまっている。
 相手のことをそこまで思っているのに、好きじゃないわけがないじゃないか。
 だが、マーニャのそれを口に出しては言わなかった。結論は、自分で出さなければならない。そうじゃないと、とても納得できる結論とはならないだろう。
 マーニャは静かにその場を去った。

 翌日、マーニャとミネアに見送られて、二人は、キメラの翼でエンドールに向かった。

第3話 「エンドール」
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