3.エンドール
エンドールにつくと、まず国王、モニカ王女、リック王子に謁見した。さすがに、エンドールにきて、この謁見を避けるわけにもいかない。
二人は、大いに歓待された。パーティが催され、豪華な料理が振舞われた。
モニカ王女とリック王子には、のろけ話をさんざん聞かされた。だが、それ以上の話題にまで発展することはなかった。エンドールも、サントハイムの内情はつかんでいた。だから、「ところで、アリーナ様には、ご縁談のお話などは……」などという話題は一切持ち出さなかった。
夜がふけ……。
アリーナは、王宮のテラスにたたずんでいた。町の夜景がよく見える。ひときわ明るいのは、カジノからもれている光であろう。
思考は、昨日の続き。しかし、堂々巡りと支離滅裂な思考を繰り返すだけで結論が出ない。
(モニカ)「起きていらっしゃったのですか」
(アリーナ)「モニカ姫こそ。こんな夜中に起きてると、お優しい夫君が心配するぞ」
(モニカ)「いえ、リックにはちゃんと言って参りましたので。サントハイムの内情については私の耳にも入っております。ですから、アリーナ様がお悩みになっていることも分かっているつもりです。少しでもお力になれれば……」
(アリーナ)「心配かけてすまない」
アリーナは、現状と問題点をあらざらい話した。
(モニカ)「クリフト様ですか。でも、アリーナ様がお嫌でないのならば、クリフト様のお幸せを願われるのなら、ご結婚ということも……」
(アリーナ)「あいつが、私に求めるものは、国王の地位でもなければ、形式的な結婚でもない。気持ちも伴わないで、形だけ結婚してみても、かえってあいつを苦しめるだけだ」
(モニカ)「すみません。私の考えが浅はかでございました……」
(アリーナ)「いや、モニカ姫が謝るようなことじゃない。私も、それは一度は考えてみたことがあるんだ。でも、それは、あいつを一生苦しめることになるだけだ。そう思ったから、やめた。だから……」
(モニカ)「問題は、一番最初に逆戻りですか……」
(アリーナ)「そういうことだな。あいつのことをまともに考えようとしているのに、思い浮かぶことは支離滅裂なことばかり。私はどうかしてしまったんだろうか?」
モニカには経験があったからすぐに分かった。それは立派な恋の始まりだ。相手のことを考えるだけで、頭の中が支離滅裂になってくる感覚……。
でも、口に出しては言わない。それは、自分で気づくべきことだから。
クリフトは、あてがわれた部屋のベッドに座っていた。
ため息ばかりがついて出る。
今までずっとずっと隠すことだけに神経を集中してきた想いを、いまさら全部打ち明けてしまえ、といわれても、どうしていいものやら途方に暮れるばかりだ。
隠し方ならいくらでも知っている。でも、打ち明け方は一つも知らない。
神官学校では、神の愛と慈愛の精神については学んだが、告白の仕方などは教えてくれなかった(当たり前だ)。
(クリフト)「はぁ……」
ため息ばかりが漏れてくる。
トントン。
(リック)「失礼いたします」
こちらの了解もとらずにリック王子が入ってきた。
そういえば、鍵をかけることすら忘れていた。
(リック)「やはり、起きておられましたか」
(クリフト)「殿下……」
クリフトは、あまりのことに声が出ない。
こんな高貴な方が、夜に自分の部屋に訪れるなど、まったく経験がない。
(リック)「私も経験があるんですよ。恋の病にかかると、夜も眠れない」
リック王子は、クリフトの隣に座った。
(リック)「お悩みのことは、身分違いのことですか?」
どうやら、事情はすべて了解しているようだ。
(クリフト)「いえ。確かにそれは問題でしょうが、姫様ならそんな問題など力ずくで解決してしまうでしょう」
(リック)「ならば、何をお悩みなのですか?」
(クリフト)「それよりもずっとずっと以前の問題です。なんとも情けない悩みですよ。もしもお断りされてしまったらどうしよう、という情けないこと極まりない悩みです」
(リック)「そればかりは、自分で克服するしかないですね」
(クリフト)「その……殿下は、モニカ姫様にどのように……そのう……想いを打ち明けられたのですか……?」
(リック)「私の場合は手紙ですね。なにせ、距離が離れていて会うことすらままならなかったですから。今読み返してみると、恥ずかしい限りですけど、想いは伝わったと思います。
でも、アリーナ姫様は、そんな回りくどいことはお嫌いそうに見受けられましたが」
(クリフト)「そうでしょうね。そんなことをしたら、面と向かって殴られそうです」
結局のところ、正面勝負しかないのだ。
最初から分かってはいたが、それでも苦悩は晴れない。
もしもお断りされてしまったら……。
果たして、自分は生きていくことができるだうろか……?
翌日。
二人は、トルネコのもとを訪れた。
(アリーナ)「後回しにしてすまない」
(トルネコ)「いえ、全然かまいませんよ。まずは、お城ってのが当たり前ですよ。それに半年前に会ったばっかりですし」
トルネコは、世界の商人ネットワークの中でも重要な位置を占めるキーパーソンだった。だから、世界中を飛び回ることも珍しくない。
そういうわけで、トルネコは、半年前、サントハイムを訪れていたことがあった。
(トルネコ)「まあまあ、是非ともゆっくりしてらしてください」
昔の話から今の話まで、会話が途切れることはなかった。
トルネコは、幸福な家庭で幸福に暮らしている。なんともうらやましい限りであった。
(アリーナ)(家庭というのはいいものだな。母上が生きていたら……あるいは……)
母は、アリーナを生んだときに亡くなった。父は、政務に忙しく……。家庭らしい家庭生活というものを送ったことがない。
そんな寂しい日常を変えてくれたのは、クリフトだった。幼い自分は、彼を実の兄のように思っていたものだ。
それが主従関係に変化してしまったのは、いつのころだったのだろう……?
(クリフト)(幸せそうな家庭ですね。うらやましい限りです……)
寂しい子供だったという点では、クリフトも同じだった。幼いころに両親を亡くし、その後すぐに孤児枠で神官学校に入った。まわりの子供はみな両親がいる子供たちばかり。頼れるものが何もない自分は、勉強に励むしかなかった。
そんなにときに与えられたのが、アリーナ姫の遊び相手の任だった。
最初は、かわいい妹のように思っていた姫君。それが恋愛対象に変わってしまったのは、いつのころだったのだろう……?
その日、二人は、ぐっすりと眠った。家庭的雰囲気にすっかりなごんでしまったこともあるが、二人とも連夜の夜更かしで寝不足だったのだ。
翌日。二人は、キメラの翼でバトランドに飛んだ。
第4話 「ライアン」
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