4.ライアン

 お城の門の前で、ライアンが待っていた。
(ライアン)「よくぞ参られた。国王陛下がお待ちかねですので、私がご案内する」
(アリーナ)「よろしくお願いする」
 二人は、ライアンに案内されて、国王に謁見した。
 魔王討伐の旅をしていたころの国王は亡くなり、新しい国王が即位していた。
(国王)「よくぞ参られました。数年前、ライアンが大変お世話になったそうで、お礼を申し上げます」
(アリーナ)「いえ、わたくしこそ、ライアン殿には何度も助けられました。お礼をいうのはわたくしの方です」
 儀礼的なやり取りが終わると、歓迎会が開かれた。
 豪華な料理に舌鼓をうちながら、ライアンに色々と話を聞いた。
 まあ、要するにバトランドは至って平和だということだった。喜ばしい限りである。ただ、あまり仕事がないものだから、将兵の給料は下がり気味なんだそうだ。
(ライアン)「まあ、私は、生活に困らない程度の給料をもらっているのでかまわないのだが、妻子持ちの兵士には生活が苦しくなっている者も多い。かといって、平和になってから減らした税金をいまさら元に戻すわけにもいかず、陛下もお悩みのようだ」
(アリーナ)「そいつは、困りもんだな」
(ライアン)「殿下も、いずれは女王陛下となられる身。今のうちに、色々と学ばれた方がよい」
(アリーナ)「分かってる」

 夜……。
 アリーナは、またまた考え事のため、テラスにたたずんでいた。
 何かつかみかけているような気もするのだが、もやもやした感じでよく分からない。
 人影があった。
(ライアン)「夜風でお風邪を引かれますぞ」
(アリーナ)「こんぐらいなら、大丈夫だ」
 しばしの静寂。
 やがて、アリーナが先に口を開いた。
(アリーナ)「こんなことを聞くは大変失礼だと思うが、ライアンさんはなぜ結婚しなかったんだ?」
(ライアン)「単に縁がなかっただけだ。青年といえる時代は、軍務に忙しかったし、30歳から40歳までは、勇者殿を探すために世界中を巡っていたからな」
(アリーナ)「後悔はしてないのか?」
(ライアン)「別に後悔はないな。親類と呼べる者は誰もいなかったから、結婚しなくても誰も困りはしなかった。前王陛下がお気にかけてくださっていたから、それが心残りといえば心残りではあるが……」
(アリーナ)「もし、結婚してほしいって言ってくる女がいたら、結婚してたか?」
(ライアン)「結婚したいと思えるほどの女性であれば、そうしただろうし、そうでなければ逆であっただろう。それだけのことだな。どちらにしても、重大な決断であるから、1週間ぐらいは悩むだろうと思う。
 しかし、姫君たることは大変ですな。人生の重大な事柄すら、自分の意思だけでは決められないとは……」
(アリーナ)「もしかして、うちの内情はバレバレか?」
(ライアン)「これでも、近衛隊長の任を受けている。色々な話が耳に入ってくる。
 ただ、父王陛下は、姫君の幸福を何よりも願っている。これだけは間違いないと確信できますな」
(アリーナ)「分かってる。この旅も、父上はあっさり許可してくたれしな」
(ライアン)「おっと、当直の時間になりましたな。失礼させていただく」
(アリーナ)「隊長でも当直があるのか?」
(ライアン)「上に立つ者は、下の者に範を示さなければなりませんからな。それでは」
 ライアンはさっそうと去っていった。
(アリーナ)「上に立つ者は……か。私は、自分のことすらまともにできてないのに、上に立つ資格などあるのかな……?」

 ライアンは、クリフトの部屋を訪れた。
 当直というのはまったくの嘘だ。年をとると、こういう方便ばかりがうまくなっていく。ライアンは苦笑した。
(クリフト)「ライアン殿……」
(ライアン)「眠れないようだな。まあ、抱えてる問題が問題だから、仕方がないと思うが」
(クリフト)「ご存知なのですね?」
(ライアン)「だいたいはな」
(クリフト)「ブライ様ですね?」
(ライアン)「先日、伝書鳩で書状が届いた。もろもろの事情を説明した上で、よしなにと。私ができることはせいぜい話を聞いてやることぐらいだが……」
(クリフト)「ご迷惑をおかけします」
(ライアン)「それで覚悟は固まったのか?」
(クリフト)「情けないことに、まだ悩んでいますよ……。ライアン殿には、似たようなお悩みはなかったのですか?」
(ライアン)「姫君にも同じようなことを聞かれたな。残念ながら、そのような話はまったくなかったし、悩むような相手にめぐり合うこともなかったから、悩むこともなかった」
(クリフト)「そうですか。では、ライアン殿は、今は幸福ですか?」
(ライアン)「そう思っている。少なくても、不幸ではないな」
(クリフト)「そうですか……」
(ライアン)「ただ、クリフト殿とは立場が違うからな。クリフト殿には、ご縁も機会も与えられている。ここで何もしないとすれば、一生後悔することになりかねない」
(クリフト)「そうですね。分かってはいるんですけど……」

 翌日。
 二人は、キメラの翼で、最後の目的地に飛んだ。

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