2.招待状

(ラーニャ)「なんか、楽しそうな街じゃん。ぱぁーと遊びたいね。なんか、いいとこ知らない?」
(マーニャ)「カジノがあるよ」
(ラーニャ)「カジノ。やったぁ! さっそく……」
 ライアンは、ラーニャの襟首をつかんだ。
(ライアン)「まずは、国王陛下への謁見が先だ。カジノは、それからでもよかろう」
(ラーニャ)「やだぁ」
 ラーニャが、ライアンに引きずられていく。

 ふと、懐かしい気配がしたので、立ち止まった。振り返る。
 そこにいたのは……。
(ミネア)「ラーニャちゃんも、すっかり姉さんにそっくりになってきたわね」
(マーニャ)「ミネア、久しぶり」
(ミネア)「本当に久しぶりね。ライアンさんに迷惑かけてない? ちゃんと妻と母親の役割を果たしてる?」
(マーニャ)「あんた、久しぶりだってのに、会うなり、そのセリフかい?」
(ミネア)「ライアンさん。姉がお世話になっております。ご迷惑を一杯おかけしているかと思いますが、ご容赦ください」
(ライアン)「いや、ミネア殿。ご迷惑ということはまったくございませんぞ」
(マーニャ)「あんたね、ひとを人間の屑みたいにいうんじゃないよ!」
(ミネア)「自覚があるなら、結構ですけど」
(マーニャ)「自覚って、あんたね!」
 ひさびさに姉妹喧嘩になりそうだったので、ライアンは話の方向を切り替えるべく発言した。
(ライアン)「そちらのお嬢様は?」
(ミネア)「私の養女です」
(ミリア)「ミリアと申します。よろしくお願いします」
(マーニャ)「その子も出るのかい?」
(ミネア)「そうよ。回復魔法と攻撃魔法の両方が使えるわ。いにしえの伝説にある賢者の才をもってるのよ、この子は」
(マーニャ)「ふーん」

 そこに、さらに懐かしい気配が……。
(アリーナ)「ライアンさんに、マーニャさんに、ミネアさんまで。久しぶりだな」
 アリーナの傍らには、クリフトがいた。
(マーニャ)「お姫さんに神官君。おひさ」
(クリフト)「その呼び方はやめてください」
(マーニャ)「ハハハ、そうだね。今じゃ立派な国王夫妻だもんね」
(ライアン)「お元気にしておられたか?」
(アリーナ)「ああ、元気そのものだ。おかげで、仕事を増やされて参ってるけどな」
 アリーナがふと振り返った。
(アリーナ)「やっときたか」
 ミリーナとハリストが、走っている。
(ハリスト)「姉上、登録締め切りまであと30分ですよ」
(ミリーナ)「分かってるよ。急ぐぞ。おっと、おふくろに親父じゃないか。話はあとだ」
 一行の横を、二人が風のように走り去っていく。
 アリーナが大声で呼び止めた。
(アリーナ)「おい、おまえらは招待出場選手だから、登録はいらんぞ」
 ミリーナの足がピタリと止まった。続いて、ハリストが急ブレーキで前のめりに転びそうになる。
 ミリーナは、母の言葉を理解するまでに、数秒かかった。
 そして、バッと振り返り、母にののしりの言葉を浴びせる。
(ミリーナ)「おふくろめ、だましやがったな!」
 続いて、ハリストが天を仰いだ。
(ハリスト)「そういうことなら、先に言ってくださいよぉ、母上。姉上があちこち寄り道するものだから、間に合うかどうか気が気でなかったんですから」
(アリーナ)「まあ、こういうのも修行のうちだ」
(ハリスト)「そんな言葉でごまかそうとしても、無駄ですよ」
 親子喧嘩に発展しそうな一触即発の雰囲気を変えたのは、たった一つの声であった。

(ユーリル)「なんだか楽しそうだね、みんな」
 ユーリルの傍らには、シンシアがいた。
 さらに、息子のシンルも。
(アリーナ)「ユーリルじゃないか。久しぶりだな」
(ユーリル)「本当に久しぶりだね。みんなも、自分の子供を出場させるのかな?」
(マーニャ)「そうだけど」
(ユーリル)「シンルに手ごわいライバル登場ってところだね」

 その後も、いろいろな話題ですっかり盛り上がってしまった。
 そんな中、一行の横をとある三人組が通りすぎっていった。夫妻と息子。おそらく武術大会を観戦しに来たと思われる、別段なんの変哲もない親子三人。
 その三人に、ミリアだけが視線を向けた。
(ミネア)「どうしたの?」
(ミリア)「いえ、何でもありません。ちょっと用を足しにいってきます」
 ミリアは、トイレに行くフリをして、一行から外れた。
 三人組を追いかける。しかし、途中で見失った。明らかに、まかれた。ミリアがつけていることに気づいていたのだ。
 あの完璧なまでの気配の偽装。やはり、あの三人はただ者ではない。
 それに気づいたのはミリアだけだった。世界でトップクラスの鋭敏さをもつ養母のミネアでさえ気づいていない。
 彼らは、何者なのか?

 ある路地裏。
「危なかったな。あの娘。明らかに気づいていた」
「人間も油断なりませんね、父上」
「まったくだ」
「大丈夫でしょうか?」
「あの娘も、証拠もなしにいいふらすことはあるまい。しばらくは大丈夫だろう」
「そうだといいのですが……」

 一行は、武術大会の主催者である国王夫妻に謁見した。
 その場に、影の主催者であるトルネコが登場した。
(ユーリル)「トルネコさん!」
(トルネコ)「いやぁ、みなさん、お久しぶりですね」
(クリフト)「どうして、ここに?」
(リック)「彼が、この大会の影の主催者ですよ」
(ライアン)「なるほど、そういうことであったか」
(マーニャ)「招待出場選手を選んだのは、あんただね?」
(トルネコ)「そういうことです。これだけのメンバーをそろえれば、盛り上がること間違いなしですよ。ありがとうございます」
(マーニャ)「客を集めて、ガッポリかせぐってわけだ。商売人だねぇ」
(トルネコ)「いやいや、それほどでも」
(モニカ)「皆様。晩餐のご用意ができましたので、どうぞこちらへ」
 かつての仲間たちが集まっただけあって、晩餐会は大いに盛り上がった。
 子供たちもお互いに交流を深めている。
 特にシンルは、勇者としての特質なのか、誰とでも打ち解けて話をしていた。
(マーニャ)「ラーニャ。いい男見つかったかい?」
(ラーニャ)「サントハイムの王子様。なかなかよさげ。シンルちゃんも捨てがたいけど」
(マーニャ)「シンルちゃんみたいな子は、なかなか手ごわいよぉ。王子様は、父親似でちょっと堅物だね」
(ラーニャ)「どっちにしようかなぁ」
 ミリーナは、旅の武勇伝を延々と話しまくっていた。ハリストが補足説明を入れている。
(マーニャ)「おや?」
 ミリアの姿がなかった。
(マーニャ)「ミネア。ミリアちゃんは?」
(ミネア)「トイレにいくって、抜けたわよ。こういうにぎやかなのは苦手なのよね、あの子」
(マーニャ)「慣れさせなきゃ、駄目よん」
(ミネア)「分かってるわ」

 ミリアは、城のテラスにたたずんでいた。
 感覚をとぎすます。
 あの三人組はまだこの街にいる。それが確信できた。
 おそらく、親子三人のうち息子が大会に出場するだろう。そんな予感がした。
 自分の対戦相手になれば、正体をあばくこともできる。
 気配に振り返る。
(ミネア)「こんなところにいたの?」
(ミリア)「お養母様」
(ミネア)「苦手なのは分かるけど、慣れなきゃ駄目よ。まあ、あなたのおばさんのようになれとは言わないけれども」
(ミリア)「努力いたします」

 翌日、予選が行なわれた。
 招待選手は、余裕の強さで予選を突破した。
 本戦トーナメントに出場が決定したのは、以下のとおりだった。

ミリーナ(女、17歳) サントハイム王女
ハリスト(男、16歳) サントハイム王子
ラーニャ(女、15歳) バトランド近衛隊員
シンル(男、18歳) 第二代目勇者
ミリア(女、16歳)  モンバーバラ出身
シグルド(男、18歳) 住所不定の旅人
ティンリー(女、20歳)ガーデンブルク女騎士団兵士 
ディアス(男、24歳) エンドール魔法兵団兵士  

第3話 「トーナメント一回戦」
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