……え? …あっ、何? もう始まってますかッ!?
えー、お見苦しいところをお見せしました。賢者です。
いえね、実はこう…賢者ってのも色々大変なんですよ。ほら、職業柄ねぇ。
何が大変ってあーた、まほーつかいとか僧侶の呪文とか両方使えるじゃないですか。
あれがねー…ほら、何てゆーんですかね、「鍋にもフライパンにも使えます」的な
コキ使われ方で、それはもー大変な……って…そうだ、これは勇者の前では大きな
声では言えな……はッ!? こりゃあ勇者さん、今日も良いお天気で。
あ、いえいえ別に何でも無いっスよ。別にねぇ、そんな陰口なんか叩くワケ
ないじゃないスか。だだだだ大丈夫ですって。ねぇ? あ、それじゃまたっ。
……あ、もう行きました? ふぅ……いやね、あたしゃ何が恐いってあの人が……
こないだなんかパーティー全員分のベホマ連発させるし、そーかと思えばいきなり
「じゃイオナズン行ってみよーか♪」
なんて軽々しく言うし…それでいて祈りの指輪はヤツが持ってンですよ?
どーです? どー思います? ねぇ? 何か虐げられてるって感じしません?
そもそもヤツもベホマ使えるし、ベホマズンだって使えるのにトータルの
MP消費量が少なくなるからってベホマ4回……お陰でこっちはもー無防備になるし
そのくせヤツと来たら
「ベホマ遅ぇよ! まずは俺なッ!」
なんて言い出す始末……
正直ね、あたしゃもう疲れましたよ…あー、こんな事なら前の職場の方が
はるかに楽だったかなー……え? 前の職場? あぁ、あたしの前の仕事って
遊び人だったんですよ。こう見えてもねぇ、遊びの芸を極めた職人と言われる
くらいで、遊び人組合では「師匠」とか言われてたんですよ。
それがねぇ…ヤツの勝手な意向でいきなり賢者にさせられた挙げ句にこの扱い…
まぁ本職の遊び人ではジャグリングと綱渡りが本業でしたからねぇ…
転職するなら盗賊って決めてたんですが……はぁ……
僧侶:「……とボヤいておりまして……」
王様:「むぅ……そうか……」
僧侶:「まぁ正直なところ私も思うところはありまして」
王様:「で、彼は今どうしてるんだ?」
僧侶:「酒場に入り浸りです。ルイーダさんもちょっと困ってるようで…」
王様:「ふむ……ヤツもなぁ……熱心なのは良いんだが…」
僧侶:「熱心すぎるところは多分にあるかと…」
王様:「まぁ、ヤツの事は余が何とかしよう。とりあえず…」
僧侶:「はい、何でしょう?」
王様:「…これで何か美味いモノでも喰って来てくれ。余からの慰労だ」
僧侶:「お…王様……っっ…私は王様がこんな優しい方だとは…っ」
王様:「ふぅ…余もヤツがこういうヤツだとはなぁ……」
僧侶:「有り難く頂戴しますッ!」
王様:「うむ。まぁ今日は3人でパーっとやってくれ」
僧侶:「御意ッッ!」
王様:(たかだか1000Gでこの泣きだからなぁ…相当虐げられてるのか…)
僧侶:「では失礼しますッ、陛下ッッ!」
王様:「…困った事があったら言うんだぞ? な?」
僧侶:「ぎょ……御意ッッッ!!」
労働基準法ってやっぱりあの世界でもあるんですかねー…
|