DQ世界においては、主人公のパーティは長旅をする。 当然、携帯に適した保存食が欠かせない。長旅ということも考慮すれば、腐りにくいことが何よりも優先される。 となると、干し肉、乾物、燻製、徹底的に塩漬けされた食物(塩抜きしないと食えたものではない)、米などの比較的腐りにくい穀物といったところに限定される。 旅における食事情というのは、たいそう貧弱なものだ。 私は、そう思い込んでいた。 ところが、DQ8のある場面を見て、仰天した。 それは、ヤンガスが「おっさん呼び」の特技を使用した場面である。 ヤンガスの呼び声に顔をあげたトロデ王は、缶詰を食している途中であった。 なに!? 缶詰だと!? 確かに、缶詰なら長期保存には適しているし、メニューを豊富にそろえれば、旅における食事情を大幅に改善することは間違いない。 しかし、DQ世界の文明レベルは、現実世界のヨーロッパ中世から絶対王政時代にかけてのものだろう。そんな世の中で、缶詰の製造など可能だったのか!? 缶詰というのは、単に食物を缶に詰めればよいというものではない。いい加減に製造すると、野ざらしにしてるのと同じ勢いで、腐ってしまうのだ。 長期保存用の缶詰を製造するならば、殺菌を充分に行ない、空気(特に酸素)を抜いて(抜ききれない場合は、窒素などを充填して空気を追い出す)、細菌や空気が入り込まないようにきっちり密閉しなければならない。腐敗というのは細菌が原因であり、ほとんどの細菌は酸素が多いほど繁殖するスピードが早いからだ。 殺菌はザラキーマでも使えば充分に可能だろうが、DQ世界の文明レベルで難しいのは、「空気を抜いてきっちり密閉」の過程だ。DQ世界の機械技術では無理だろう。よって、高度な魔法技術が必要だ。 したがって、缶詰作りに必要なのは、ザキ系呪文が使える僧侶・神官と高度な技術を有する魔法使いということになる。 となれば、製造コストはかなり高い。 よって、缶詰は高級品である。普通の冒険者たちの手に届くような値段ではあるまい。 干し肉等で一応は間に合うのだから、需要もそれほどはないだろう。そういうのを必要とするのは、豪華客船ぐらいだ。DQ世界では、豪華客船によるクルージングなんて話は、あまり聞かない。 需要がなければ、缶詰製造に資金を投入しようとする商人も現れないだろう。 あの缶詰を製造するための資金は、誰が供給しているのだろうか? ん、待てよ。トロデ王は、文字通り国王だ。 潤沢な予算と豊富な人材さえあれば、採算度外視で、缶詰を製造させることは不可能ではない。 真相は、おそらく、次のようなものだ。 トロデ王は、有事の際にも王国の将兵に豊かな食生活を保障しようと思い立った。そこで、充分な予算をつけ、必要な人材をかき集めて、様々な種類の缶詰を製造させ、備蓄していたのだ。 食料は重要な戦略物資。その点をきっちり押さえていたのだから、トロデ王は国王としては有能だ。 そこにドルマゲスが来襲。城はいばらの呪いで封じられてしまった。 とにかく、ドルマゲスを追わないことには始まらない。長旅になる可能性が高い。となれば、保存食を馬車に積み込んでおく方がいいだろう。 そこで、ふと思い出したのが、城の倉庫に山積みになっている缶詰だ。ときは、まさに有事。これを使わぬ手はない。 トロデ王は、自ら錬金釜を馬車に搭載すると、主人公に命じて馬車にありったけの缶詰を積み込ませた。 なるほど、あの缶詰は国家権力のなせるわざだったのか。 |